こんにちは!
架空の本屋さん「かなへび文庫」を運営しているシロイクジラです。
今回は、読書感想文でお悩みの方へオススメの本を紹介します。
今は本好きを自称していますが、大学に入学するまでは本なんて大嫌いでした。
なので、読書感想文に苦しむ生徒さんの気持ちがよくわかるつもりです。
なので、なるべく苦労なく読書感想文を終わらせられるように選書の面で協力できればと思っています。
ただ、事前に断っておきますが、ぼく自身は人から勧められた本を読むのは苦手です。
人生の中で自分に合う本に出会うことは、とてもすばらしいことです。
でも、人に強制されてイヤイヤ読む本は、その時点で大切な魅力を失っています。
読書以外にやりたいことがあるなら、読書感想文なんて野暮な宿題は早く終わらせて、やりたいことをとことんやってほしいと思っています。
そもそも、読書感想文が本離れ、読書離れの一因だとすら思っています。
本を選んだポイントは次のとおりです。
①短い=薄い
実際に本を手に取って読み始めるまでが一番難しいんですよね。
②著名な作家
作家のネームバリューは、それだけで先生を黙らせる効果があります。特に権威に弱い大人を。
③解釈が自由
「何が言いたいかよくわからない」ということは、その作品の解釈に正解がないということでもあります。したがって、その点については先生も批判できないはずなので、やり直しのリスクが減ります。
④当然内容がおもしろい
ぼく自身が読んでつまらなかった本は外しています。だけど根暗なので暗い本が多いです。
読書嫌いの方は、夏のフェアで必ず見かけるこの2冊だけはやめた方がいいです。
駄作だと言っているわけではありません。
ただ、読書嫌いの人にはあまりにも難易度が高すぎるんです・・・
(ぼくも両方とも序盤で挫折しました)
- ヘミングウェー 『老人と海』
- 川端康成 『雪国』
薄さで選ぶ
文庫本で100ページ程度の本だけを選んでいます。
フランツ・カフカ『変身』
夏のフェアの定番であり、読書感想文の定番です。
書店で目をひく圧倒的な薄さ。
ぼくの手元にある文庫本は本編で97ページ、解説や年表をあわせても121ページしかありません。
ぼくも中学生の時、読書感想文用に「一番薄い」という理由で買いました。
当時、マエダ本店の4階には大きな書籍コーナーがありました。
ローカルネタですみません。
でも、内容はすごいおもしろいんです。
あらすじをひと言で表すとこうです。
朝起きたら、虫になっている話。
著者であるカフカは、文学界では超有名人です。
そして『変身』は彼の代表作でもあります。
読むたびにいろんなことを考えさせられます。
特に最後。主人公が死んだ後、家を出ていく両親と妹の明るい描写が、なんとも言えない気持ちにさせてくれます。
主人公が変身した虫は何だったのか。
変身とは何を意味しているのか。
家族や社会の中で自分とは何なのか。
カフカは答えを書いていません。
それを考えるのが『変身』の楽しみです。
アルベール・カミュ『異邦人』
カフカの『変身』とともに、夏のフェアの定番の中で、その薄さから人気なのがカミュの『異邦人』です。
ぼく手元の文庫本では、本編で127ページ、解説含めて146ページです。
薄さにだまされると、読んでからの落差に衝撃を受けます。
読み終わった後、重く沈んだ気持ちにさせられるからです。
カミュは「実存主義」という思想の作家として知られています。
つまり、「自分が今ここに存在する」ということを何よりも大事にするという考え方です。
もうひとつのキーワードは「不条理」です。
「実存」にこだわって、自分が思うように存在しようとする。
しかし、社会がそれを抑圧する。行動に制限をかけようとする。
その軋轢が「不条理」です。
この小説の背表紙には、あらすじがこう書かれています。
母の死の翌日に海水浴に行き、女と関係を結び、映画をみて笑いころげ、友人の女出入りに関係して人を殺害し、動機について「太陽のせい」と答える。判決は死刑であったが、自分は幸福であると確信し、処刑の日に大勢の見物人が憎悪の叫びをあげて迎えてくれることだけを望む。
『異邦人』 窪田啓作訳 新潮文庫 平成15年5月30日 111刷
前半はのんびりしていてこれがどうして名作になるのかがわからないんですが、それらが全部最後の牢獄での司祭との会話に収斂していきます。
人生に悩めば悩むほど、主人公のムルソーに没入できると思います。
若いうちはヘタに「実存」とか「不条理」とかにこだわらず、「よくわからない」という感想でいいと思います。
「未来の自分への投資」という意味で読んでみてもいいと思います。
いつか「読み返したい」と思う時がくると思うので。
きょう、ママンが死んだ。
『異邦人』 窪田啓作訳 新潮文庫 平成15年5月30日 111刷
『異邦人』の有名な書き出しです。
「ママン」はフランス語の「maman=母」です。
「母」、「お母さん」、「おふくろ」、などいろんな日本語があるなかで、訳者はあえて「ママン」と訳したってことです。
もうひとつ。
本書の題名は言語によってこう違います。
- フランス語
-
L’étranger
- 英語
-
The Outsider
- 日本語
-
異邦人
アウトサイダーって、ある集団から見てその集団の価値観に合わない人のことを指し、外国人って意味もなくはないんですが、それをあえて「異邦人」訳すことで、このタイトルにいろんな意味を含有させたんだと思います。
自分も初めは「異邦人」ってタイトルが分かりづらいと思いました。でも何度も読んでいると、この「異邦人」という単語を選んだセンスに敬服するしかない。
翻訳に絞ってもおもしろいレポートが書けそうですね。
谷崎潤一郎『春琴抄』
谷崎潤一郎といえば昭和を代表する文豪です。
教科書などでも紹介されていた記憶があります。
なので、どんなに薄い本でも怒られることはありません。
だって文豪ですから。
この作品は昭和8年、1933年発表です。
漢字が多く、昔ながらの聞き慣れない言葉も多いので、少し読みづらいと感じるかもしれません。
ただし、本編74ページ、解説含め106ページという圧倒的な薄さは魅力です。
実は、ぼくはこの本が苦手です。
想像に耐えないからです。
あらすじをひと言で紹介するとこうです。
三味線の女師匠が目を火傷して失明したことに心を痛めた付き人が、自分の目を針で刺して自ら師匠と同じ目の見えない世界に入るという話。
日本的な美しさはあると思いますし、一気に読み終わった記憶もあります。
ただ、ぼくには辛くて、読み返す気が起きません。
安部公房『壁』
『壁』には複数の作品が収録されていますが、「S・カルマ氏の犯罪」がオススメです。
文庫で130ページくらいの作品です。
あらすじははこんな感じです。
名刺に名前を奪われたことで、胸の中がからっぽになり、からっぽになった胸の陰圧で目で見るものを吸い込んでしまい、その罪で裁判にかけられ、それどころか名前がないのだから世の中のすべての罪が自分によるものになると、社会から永遠に追及されることになり、世界の果てに逃亡し、最後に壁になる人の話。
バカバカしいと思うかもしれません。
でも、これが昭和26年の芥川賞受賞作品です。
「文学ってこんなのでもアリなのか」って感想でもいいと思います。
語り口も軽いですし、日本文学の伝統みたいなものは一切感じさせません。
ぼくも『壁』に収録されている「S・カルマ氏の犯罪」と「バベルの塔の狸」を読んで、文学に対する既成概念を取っ払うことができましたし、そこからシュールレアリスムに関心を持つようになりました。
短編OKならコレ
読書感想文は長編縛りが多いですが、短編でもOKという場合のオススメを紹介します。
短編の場合は、解釈の自由度がより高い方が感想を書くのが楽だと思います。
村上春樹「TVピープル」
ノーベル文学賞候補の村上春樹をダメという先生はいませんよね。
村上春樹は長編が多いですが、ホントに長くて、上中下巻なんてなかなか読めないです。
そんな方には、初期の短編集がオススメです。
短編でも、あのよくわからない村上ワールドを楽しむことができます。
イチ押しなのが「TVピープル」。
あらすじをひと言にまとめると、こんな感じになります。
ある日TVピープルが家にテレビを持ってくる話。
繰り返しますが、ノーベル文学賞候補の村上春樹の作品です。
以前のレビュー記事もありますので、気になる方はこちらもご覧ください。
芥川竜之介「歯車」
芥川竜之介は古典を題材にした短編が多いですが、どうせ読むなら、普段手に取ることがないであろう「歯車」をオススメします。
芥川が自ら命を絶ったその年に書かれた作品で、相当精神を病んでいたんだろうと感じるほど、めちゃくちゃ暗いです。
ぼくも元々芥川には興味がなく、「国語の教科書に出てくる=正統派な文豪」のイメージでしたが、こういう作品を残し自死したと知って印象が変わりました。
回る歯車の幻覚が見えたり、電話から「モオル(mort=フランス語で「死」)」と聞こえてきたり。
最後はこう締められています。
僕はもうこの先を書き続ける力を持っていない。こういう気もちのなかに生きているのは何とも言われない苦痛である。誰か僕の眠っているうちにそっと絞め殺してくれるものはないか?
芥川竜之介 『歯車 他二篇』 岩波文庫 P75
「国語の授業で芥川を教えるなら、ここまで教えてくれよ」と、本嫌いだったぼくは思うわけです。
こういう本があって、こういう作家の人生があったと知っていたら、もっと早いうちから文学に興味を持っていたかもしれないと。
サリンジャー「ナナフィッシュにうってつけの日」(『ナインストーリーズ』)
サリンジャーと言えば『ライ麦畑でつかまえて』が有名です。
短編でオススメなのは「バナナフィッシュにうってつけの日(原題:A Perfect Day for Bananafish)」です。
サリンジャーは独特の世界観で有名ですが、もうタイトルからして不思議感いっぱいです。
バナナフィッシュって何?
文庫で30ページほどの短編ですが、終始わからないことだらけのまま話が進んでいきます。
専門家による批評も多くありますが、読書感想文を書くには、事前の情報がない状態で読んで感じたことをそのまま書くのがいいと思います。
「小説には読み手の数だけ解釈がある」
その良い例かな、と。
参考までにバナナフィッシュがどんなものか、少しだけ引用します。
「あのね、バナナがどっさり入ってる穴の中に泳いで入って行くんだ。入るときにはごく普通の形をした魚なんだよ。ところが、いったん穴の中に入ると、豚みたいに行儀が悪くなる。ぼくの知ってるバナナフィッシュにはね、バナナ穴の中に入って、バナナを七十八本も平げた奴がいる」
J.D.サリンジャー『ナインストーリーズ』 野崎孝訳 新潮社文庫 P29
常識を超えても成立しうる世界。
それが文学なんですね。
安部公房「デンドロカカリヤ」
安部公房の「デンドロカカリヤ」もいい感じに不思議な作品です。
「コモン君が植物であるデンドロカカリヤになった話」です。
レビュー記事もありますので、そちらもご覧ください。
イメージしやすくて読みやすい作品(少し長いけど)
最後に、これまでの作品に比べ少し長いですが、イメージしやすくて、とっつきやすく読みやすい作品を紹介します。
コナン・ドイル『緋色の研究』
シャーロック・ホームズシリーズ始まりの物語です。
つまり、ワトソンがホームズに出会うシーンが描かれている作品です。
ホームズには傑作がたくさんあり、特に短くておもしろい作品が多いので、最初の作品を読むことはあまり多くはないように思います。
当時19世紀のイギリスは大英帝国時代。インドがイギリスの植民地であった時代です。
物語は、ワトソンが軍医としてインドに赴任し、そこからアフガニスタンに転戦し、負傷してイギリスに帰国するところから始まります。
時代も文化も全然違う。
でもついつい読み進めてしまうおもしろさ。
犯人を捕まえてトリックをあばく前に、回想が入って舞台がアメリカに移るって構成も、作品としてすごいなと思います。
推理小説としても歴史小説としても楽しく読めると思います。
光文社文庫に収録されている赤川次郎さんのエッセイを引用します。
―イメージ。
霧のロンドン。濡れた舗道。ホームズの奏でるヴァイオリンの音色・・・・・・。
僕を捕らえて魅了したのは、シャーロック・ホームズの推理や謎解きではなく、映像として浮かぶ世紀末のロンドンのイメージだったような気がする。
赤川次郎「私のホームズ」(『緋色の研究』 日暮雅通訳 光文社文庫 P236)
ぼくの本では、本編が214ページ、解説を含め237ページ。
でも、物語に引き込まれてしまうので、あっという間に読み終わってしまいます。
ルイス・キャロル『ふしぎの国のアリス』
ディズニー映画で大人気のアリス。
なので、映画が好きな人であれば、すごく読みやすい本だと思います。
ディズニーだからダメって先生に言われそうだけど?
ご安心ください。
作者であるルイス・キャロルは、19世紀イギリスを代表する有名な作家で、英国文学を研究する上では避けては通れない研究対象のひとりでもあります。
現に多くの研究者が「アリス」に限らず、ルイス・キャロルの生涯を研究しています。
なので、仮にディズニー映画をベースにした児童書はダメだとしても、ルイス・キャロル作品の翻訳であればそれはれっきとした英国文学作品なので、堂々と感想文を提出してください。
ルイス・キャロルを否定することは、英国文学研究そのものを否定することになります。
それはつまり教師の無知の表れです。
読書感想文を終わらせるコツ
読書感想文を終わらせるのコツは、簡単だと思っています。
つまり、自分の意見・感想を書くこと。
書くことが何もなくて、あらすじを書いたり、後ろについている解説を書き写したり、ネットから転記したり。
でも、経験上、そっちの方が煮詰まってしまいます。
なぜなら、他人の言葉なので、つなぎあわせてひとつにまとめることが難しいからです。
「感想」というと、その作品の良さ、すばらしさを書かなければいけないと勘違いしている人も多いと思います。
そうではなくて、
つまらなかったらなら「なぜつまらないのか」
内容が難しいと思ったなら「なぜ難しいと思ったのか」
その理由を書けばいい。
読んだ本が必ずしもすばらしい本だとは限らない。
その本は今のあなたの環境にあってないのかもしれない。
だから読書感想文で、作品や作者を称賛する必要はありません。
人は、自分が好きなものであればたくさん語ることができます。
サッカーが好きな人は、プロ選手のたったワンタッチのトラップについて、そのスゴさをいくらでも語れると思います。
野球が好きな人は、カウント2-2からの次の1球、そのたった数秒について、いくらでも語れると思います。
読書も同じです。
作品を読んで、感情移入できればたくさん感想を書ける。
そうでなければ書けない。
ただそれだけ。
作品のテイストが合わないだけかもしれない。
人生におけるタイミングが悪かっただけかもしれない。
その本をおもしろいと感じなかった読者が悪いわけでははない。
だから堂々と自分の感想を書きましょう。
書きたいことを書けば、字数は勝手に増えていきます。
ちなみにこの記事は約6800字。
ちょうど原稿用紙17枚分です。
まとめ
本が苦手な人への読書感想文オススメの10冊を紹介しました。
1冊でも読めそうな本があったらうれしいです。
ただし、あくまでたたき台として、参考にしていただくだけで十分です。
誰かが勧めた本よりも、自分が読んでみたいと思った本を読むのが正解ですから
今回は学校対策として文学作品ばかり選びました。
でも、本当はマンガでも絵本でも、自分が読みたい本を読めばいいと思っています。
その感想を自分の言葉で表現することが大事だと思っているからです。
先日、このようなツイートを見ました。
「筋トレが全部解決する」という啓発本を読んだ、小6の感想文だそうです。
ぼくはこの本を買いましたが、この感想文を読んで「また読み返したいな」と思いました。
自分の思いを相手に伝えるのが読書感想文の目的だと思います。
本の世界に入り込むことができれば、そういった文章を書くのは実はそう難しくありません。
読書感想文が難しい理由は、読んだ本が自分にあっていないからです。
ビジネス本でも、絵本でも、マンガでも、何でもOKな時代が早く来てほしいですね。
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