村上春樹を初めて読む人にうってつけの一冊|村上春樹「TVピープル」

テレビピープル

毎年ノーベル文学賞の候補にあがる村上春樹。

言葉にできない何か、映像で表現できない何かを訴えてくる感じが好きです。

代表作には長編が多いように思いますが、世界観が独特すぎて、なかなかついていけないところが個人的にはあります。

それに、この忙しい時代、上下巻本なんてハードルが高くて、興味はあるけどまだ読んだことのない人も多いのではないでしょうか。

そんな村上春樹未経験の方にオススメしたいのが、「TVピープル」です。

タイトルだけ見ると、「えっ、この人がノーベル文学賞候補?」なんて思っちゃうかもしれません。(自分も最初はずいぶんテキトーだなと思いました)

村上春樹のキャリアにおける「TVピープル」の位置づけなんてわかりません。でも、いろいろ読んで思うことは、村上春樹特有のよくわからない世界観、凡人では思いつかない世界観みたいなものは、多くの作品に共通しているのではないかと思っています。

なので、これを読めば村上作品の雰囲気がよくわかると思っています。ぜひ試金石代わりに読んでみて、好きな方は長編へチャレンジしてみてはと思っています。

なにより「テレビピープル」って響きがいいんですよね。

あらすじ

ある日、TVピープルが家にテレビを持ってくる。

TVピープルは3人で、運んできたテレビはソニー製。

妻は外出中。帰宅後、妻はテレビについて何も言わない。

ある日、会社にTVピープルが現れる。

会議中の会議室にテレビを設置しようとするが、適当な場所がなくて持ち帰る。

会社の同僚にそのことを話すと、なぜか気まずい雰囲気になる。

妻が家に帰ってこない。

テレビからTVピープルが出てくる。

テレビにTVピープルが飛行機をつくっている映像が流れる。でもそれは飛行機には見えない。

TVピープルは言う。「奥さんはもう帰ってこない」と。「何故って、もう駄目だから」とも。

TVピープルによれば、あと5分くらいで妻から電話がかかってくるという。

主人公は電話回線の末端にいる妻のことを考える。同時に飛行機に見えない飛行機のことも。

主人公は何かを言おうと立ち上がるが、その瞬間に言葉は消えてしまった。

村上春樹の主人公は、こういう変なシチュエーションをなぜかすんなり受け入れます。

「おかしいと感じるけど、おかしくないと言えばおかしくない」みたいな感じで。

そしてどんどん迷路に迷い込んでいきます。

ぼくの好きな安部公房の描く世界がどんよりネバネバしたした印象なのに対し、村上春樹の世界は透明感のある印象です。

それは、理不尽で抗うこともできない不条理な外部社会よりも、自分の中にある自分でも理解していない内的要因にフォーカスしようとしているからかもしれません。

この作品の中では、いろんなことが結局わからないままになっています。

  • TVピープルが来たから夫婦生活がダメになったのか、もともとダメだったからTVピープルが現れたのか?
  • なぜテレビなのか?なぜソニーなのか?
  • 妻や会社の同僚はなぜTVピープルが気にならないのか?
  • なぜ飛行機を作っているのか?どんな飛行機なのか?
  • 妻はどこに行ったのか?電話で何を話すのか?
  • 主人公は最後に何を言おうとしたのか?

いろんな解釈を考えてもいいし、わからないままでもいい。自分なりの楽しみ方を見つけていただければと思います。

ぼくが中高校生なら、夏休みの読書感想文は絶対この本にします。

文章は読みやすいし、文量は少ないし、村上春樹ってネームバリューはあるし。

でも一番大事なポイントは、正しい解釈なんて絶対にありえないということ。

だから、どんな感想を書いたって、先生にとがめられる心配がないですからね。

ちなみに、ぼくはTVピープルが「コミュニティの中での関係性の終わりの象徴」だと思います。夫婦というコミュニティ、職場というコミュニティでの終わりを告げるために現れるのがTVピープル。「TVピープル」の初出は1989年ですから、ちょうど昭和から平成になった年です。たぶんテレビはどの家庭にもあるのが当たり前の時代で、社会との共通認識をつくるうえでの一般的なツールでもあったと思います。でも、主人公の家には元々テレビがない。そしてガルシア・マルケスなんかを読んでいる。なので、一般的な社会人像とかけ離れた、社会に同調しない存在なんだと思います。しかし、そうあり続けることに社会の側からNGが出される。その結果としてのTVピープルの登場。社会とのつながりを拒絶する主人公の日常に対し、社会がテレビという形で介在してくる。飛行機には見えない何かの物体。でも社会がそれを飛行機だと言えばそれは飛行機になる。むしろ飛行機でなければならない。だから、もし作品に続きがあるとすれば、主人公に与えられた未来は、飛行機だと言われればそれを飛行機だと信じる普通の社会人になって社会に復帰するか、あるいはそれを拒否するがゆえに社会から疎外されてしまうか、のいずれかではないかと思います。でもたぶん、村上春樹の主人公はどちらも選ばずに、あてもなく妻を探す旅に出るんだと思います。TVピープルに追われ続けながら・・・

紹介した本

書 名 TVピープル

著 者 村上 春樹

出版社 文春文庫

テレビピープル

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