あらすじをひとことで言うと、「コモン君がデンドロカカリヤになった話」です。
「コモン君」とはこの物語の主人公で、「デンドロカカリヤ」とは植物の名前です。
つまり、「主人公が植物になってしまう話」です。
カフカの『変身』では、主人公が冒頭から虫になって登場し、虫としての生活が描かれています。
一方、「デンドロカカリヤ」では、コモン君の友人を通して、コモン君が植物に変身していくまでの過程が描かれています。
そして、デンドロカカリヤになってしまったところで物語は終わります。
なぜ、コモン君はデンドロカカリヤになってしまったのか?
作品の中では、植物になってしまうのは最近めっきり増えた「例の病気」であって、それは「自殺者に対する罰」とされています。
よくわかりませんよね。
でも、それでいいんです。
読み終わった後の、もやもや感というか、何かスッキリしない感じ。
言葉にできない何か。
頭の中に新しい空間ができたというか、逆に霧がかかったというか。
合理性や論理性に支配されきった頭を揺さぶってくれる。
その感覚が「デンドロカカリヤ」の楽しさだと思っています。
ところで、文学作品となると「正しい解釈」みたいなものがあると思われがちですが、そんなものはないと思っています。
作品の解釈は読者次第。だから感想は人それぞれ。評価も人それぞれ。
本を読むことの一番大切なことは「物語を楽しむこと」です。
読んで楽しければ、別に意味なんか求めなくてもいい。
何か感じるところがあれば、それは誰かと違ったっていい。
本の中に描かれている世界は、再現性のないあなただけのオリジナルな世界。
街並み、色彩、表情、そして意味。どれひとつとして他人と一致することがない。
そんな自分だけのオリジナルな世界に没入できるおもしろさが、本を読む楽しみだと思いますし、「デンドロカカリヤ」をはじめとする安部公房の作品のおもしろさだと思います。
よくわからない世界、いつもの日常とまったく異なる次元の世界がある。
「デンドロカカリヤ」では、その世界観を楽しんでもらえればいいかなと思います。
(戦後はこんな作品が流行ってたんだなとか、こんな作品でも文学って呼べるんだな、っていう楽しみ方でもいいと思います。)
50ページ程度の短編なので、忙しくてもサクッと読めますよ。
ちなみに、自分なりに解釈すると、テーマは「疎外」かと思っています。
コモン君は何らかの理由で「普通の」人間社会の枠からはみ出してしまったがゆえに、その社会から排除される。
人間以外のものに変身するというのはそのメタファーで、最後はデンドロカカリヤとして植物園という檻の中に隔離される。
価値観が合わないなど、自分たちとは異なるものを「異物」としてコミュニティーから排除しようとする社会の疎外の状況、そして個人ではな為すすべもなく疎外されていく不条理さ、それらが表現されていると思います。
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