タバコをやめる方法|安部公房『死に急ぐ鯨たち』

死に急ぐ鯨たち

『死に急ぐ鯨たち』は安部公房のエッセイや対談をまとめた本です。

その中にたった4ページの「タバコをやめる方法」というエッセイがあります。

タイトル通り、タバコをやめる方法が書かれています。

順を追ってご紹介していきますね。

まず、「なぜタバコを吸いたくなるのだろう」という問いから出発して、

タバコが麻薬やアルコール中毒と異なると考えます。

第一タバコにはこれと言った禁断症状がない。

(中略)

タバコが麻薬やアルコールのような人格障害を引き起こした例もまだ耳にしたことがない。癌や心臓病の原因になることはあっても、精神に影響を及ぼすほどのものでないことは確かなようである。

P52

次に、「奇妙な性質」として、タバコが習慣化するにつれ、本数は増えても銘柄がマイルドになっていく傾向があることに着目します。

喫煙者が欲しているものはタバコそのものであって、その中に含まれているニコチンやタールだけではなさそうだ。

P53

そして、自分で「タバコを吸いたくなった時の心理状態や、吸っている最中の感覚を、内省的に観察してみた」結果、ひとつの結論を導き出します。

そしてこれは薬物を吸っているのではなく、時間を吸っているらしいことに気付いたのだ。もしくは時間を変質するこころみと言ってもいいかもしれない。

(中略)

だからたとえば電話を掛けるときなど、ついタバコに手が伸びてしまう。自然な対話でない時間の欠損部分を補填するためのパテ代わりの煙のような気もするのだ。

P53-54

つまり、タバコを吸う理由は、ニコチン中毒のような生理的なものではなく、「完全に心理的なもの」だということなのです。

喫煙の悪癖は生理的耽溺ではなく、言語領域での心理偽装にすぎないのだ。あえて名付けようとすれば、これは一種の言語療法だろう。言語による心理の内部調整である。

P55

生理学的な害を自分に言い聞かせる方法や、ハッカパイプなどの代用品は、誰もが一度は試みて失敗した処方だろう。タバコ中毒がふつうの薬物中毒でないのなら、そういう自虐的なやりかたが逆効果になるのはむしろ当然のことだ。

P54

いよいよ本題です。

どうやってタバコをやめるか。

以下に要約しました。

タバコをやめる方法

手元にタバコとライターを置き、すぐに吸いはじめられる状態にする。

タバコを吸いたい気分が熟するのを待つ。

ライターに火をつけ、タバコのぎりぎりまで近づけてもいい。

そして考える。

「今自分はタバコを吸いたいと思っている。もし吸わなかったら、何か生理的な不具合が生じるだろうか。」

その気になればすぐに火をつけられるのに、我慢している。

2分経過。3分経過。

どこか痛むだろうか。

4分経過。5分経過。

頭が痛みだしただろうか。胸が苦しいだろうか。

なんの変調も認められない。

当然だろう、タバコに禁断症状はありえないのだ。

そして10分経過。

10分間我慢できればもうしめたもの。

タバコを吸わなくても平気だという感覚を心の底に刻み込み、吸いたくなった時に思い出してやればいい。

必要なのは集中力だけだ。

(P54から引用。一部要約)

安部本人は、この方法で1週間でも2週間でも禁煙を続けることができたそうです。

ただし、あまりに簡単に禁煙できるので、

「この原稿を書きながら、すでに数本分を灰にしてしまった。(P55)」

というオチがついています。

実は、安部公房本人はヘビースモーカーとして有名です。

ぼくはタバコをやめたので、タバコを吸う人の気持ちをリアルに表現することはできませんが、

  • 仕事に疲れてタバコを吸う
  • アイディアに煮詰まってタバコを吸う
  • 仕事にひと区切りついたからタバコを吸う

という人が多いと思います。

でも、冷静に考えて、タバコを吸って疲労が劇的に回復することはありませんし、

タバコを吸えば画期的なアイディアが生まれるわけでもありません。

疲労の回復という点で言えば、自席で天井を見上げてぼーっをしてもいいわけですし、

アイディアならチーム内でブレストするとか、SNSでネタを拾ってきてもいいわけです。

なので、タバコを吸うという行為は、「時間を変質させることによって、仕事から離れて何もしない時間を作りたいという心理偽装である」と言っても、間違ってはいないように思います。

タバコをやめたいと思っている方、禁煙に何度も失敗している方。ぜひ一度この本を読んで試してみてはいかがでしょうか。

ニホントカゲ

仕事を休んで禁煙外来に行くより、時間もお金も楽に済みますよ。

タバコを吸うメリットとして、「無意識状態になれる」という点があるかと思います。

空に消えていく煙をひとりぼんやり眺めていると、さっき読んだ本の内容や、さっき聞いた講義の内容が、頭の中で整理されていくような感覚がありました。

ひと仕事終えた後の一服は、そういう効果もあるかもしれませんね。

また、煮詰まって書きかけになっていたレポートの続きが、ふっと思いつくことがあったような気がします。

ドライブに同じような作用があるとわかってからは、ぼくはそれで代用しています。

さいごに・・・ぼくの禁煙体験談

10年以上前、妻からタバコをやめてほしいと言われました。

ぼくの健康というより、一緒にいて臭いからだったと思います。

ちょうどその数日前に1カートン買い足したばかりで、未開封のまま残っていました。

捨てるのももったいないので、そのカートンがなくなったらやめると約束しました。

その後、このエッセイを読み返して、気持ちの問題なんだなと認識し直しました。

そのうち、仕事が忙しいのにタバコを吸っていることに矛盾を感じるようになりました。

トイレに行く時間も、昼飯を食べる時間ももったいないくらい忙しかったからです。

ということで、カートンがなくなって、それっきりタバコを吸わなくなりました。

お酒の席とかですすめられて吸ったこともありましたが、また吸いたいという気持ちにはなりませんでしたよ。

紹介した本

書 名 死に急ぐ鯨たち

出版社 新潮文庫

著 者 安部 公房 

死に急ぐ鯨たち

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