自衛隊への個人情報提供と除外申請を考える|自衛隊法施行令120条と住民基本台帳法11条「閲覧」の解釈

自衛隊個人情報

先日、あるツイートが目に留まりました。

「こんなこと本当にある?」と思って調べてみましたが、どうやら事実のようです。

ぼく自身は自衛隊の活動には基本的に賛成です。

この一件が、「徴兵制への一歩だ」とも騒ぐつもりもありません。

ただ、「一方的に除外申請を求めておいて、申請がないから個人の情報を勝手に抜く」というやり方は姑息で賛同できません。

そこで、法的な関係について調べてみました。

自分の頭の中を整理するつもりで書いています。

解釈がおかしな点があるかもしれませんので、あらかじめご了承ください。

本記事のポイントは5章になります。お急ぎの方は「それでも残る疑問|住民基本台帳法11条の「閲覧」の解釈」からお読みください。

この件については、問題点は2つあると思います。

問題点と個人的見解
  1. 自衛隊に個人情報を見せることがそもそも適切なのか?【少しあやしい】
  2. 自衛隊に個人情報を見せるだけでなく、提供することが適切なのか?【たぶん違法】
目次

問題点の整理(兵庫県弁護士会)|2023.7.11追記

自衛隊への個人情報提供の問題点について、兵庫県弁護士会がとてもわかりやすくまとめてくれています。

下記ページを読んでいただければ、問題点がクリアになると思います。

兵庫県弁護士会
自衛隊への個人情報提供に関する意見書 2022年(令和4年6月22日兵庫県弁護士会会 長  中 上 幹 雄   【意見書の趣旨】  自衛隊に、当該本人の同意なく、住民基本台帳に基づき「氏名、生年月日、性...

一部抜粋します。

【意見書の趣旨】

自衛隊に、当該本人の同意なく、住民基本台帳に基づき「氏名、生年月日、性別、住所」の4情報を、電子データで提供することについて、兵庫県下の地方自治体に対し、憲法13条及び住民基本台帳法など個人情報保護法制との整合性について、再度十分に検討することを求めるとともに、法的に可能と判断された場合であっても、個人情報保護の観点から、情報提供の根拠、提供した対象年齢、人数、提供している情報の内容など、その提供の詳細を広く市民に周知し、少なくとも、提供を希望しない市民については、提供対象から除外することを可能とする制度を設けることを求める。

【意見書の理由】

1 (略)

2 問題の所在

住基4情報は個人識別情報として憲法13条で保障された人格権のうちのプライバシー権によって保護の対象とされている。

すなわち、憲法13条は、国民の私生活上の自由が公権力に対しても保護されるべきと規定しており、何人も、個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を有する(最高裁昭和44年12月24日大法廷判決)。

そして住基4情報が、法的に保護されるべき情報に該当することは、個人情報保護法1条、2条及び最高裁判決でも認められているところである(最高裁平成15年9月12日第二小法廷判決、同平成20年3月6日第一小法廷判決)。
したがって、住基4情報を本人の同意なしに自衛隊に対して提供することは、憲法13条で保障されたプライバシー権を侵害するおそれがある。

3 住民基本台帳法の規定

住基4情報は、住民基本台帳法(以下「住基法」という)に基づき、住民基本台帳に掲載されている情報である。
住基法では、平成18年の法改正までは、誰でも住基4情報の写しを閲覧することが可能であったが(旧法11条1項)、改正により原則非公開となり、閲覧できる要件が厳格となるとともに、国又は地方公共団体の機関は、法令で定める事務の遂行のために必要である場合には、市町村長に対して同写しの「閲覧」を請求することができる、と規定された(住基法11条1項)。
そのうえで住基法は、市町村長が住基4情報など住基法に掲載された情報のうちの本人確認情報を「提供」できる場合は、住民基本台帳ネットワークシステム(いわゆる「住基ネット」)による場合だけとしている(住基法第4章の2「本人確認情報の処理及び利用等」、同法30条の6、同第3節「本人確認情報の提供及び利用等」)。

4 防衛省及び総務省の見解

(1)以上のとおり、住基法では、自衛官募集のために住基4情報を得る方法は、住民基本台帳の写を「閲覧」するだけである。
この点について行政解釈でも、住基法で認められているのは、同法11条1項の「閲覧」に限定され、複写機による複写は、住基法11条1項の「閲覧」の概念を超えるものであるから、同規定により、地方公共団体が、住民基本台帳のコピー等を「提供」することは認められない、としている(令和2年地方分権改革に関する提案事項に対する防衛省回答)。

(2)他方で、防衛省及び総務省は、前記防衛省回答、および令和3年2月5日付「自衛官又は自衛官候補生の募集事務に関する資料の提出について」と題する通知を各市町村担当部局宛に発出して、住民基本台帳の一部の写しの国への提出は、自衛隊法97条1項、同法施行令120条を根拠として実施可能である、としている。

5 自衛隊法97条1項、同法施行令120条は個人情報提供の根拠規定となるか

(1)(略)

(2)自衛隊法97条1項等の規定

 ア イ (略)

 ウ また、(1)イに記載した住基法と比較しても提供される情報について具体的に何も規定を設けていない自衛隊法97条1項等をもって、基本的人権を制限する規定と理解することはできない。

(3)小括

以上のとおりであるから、そもそも自衛隊法97条1項等を個人情報提供の根拠法と解することには無理があり、同法等を根拠として電子データ、紙媒体、宛名シールの交付など、住基法に基づく閲覧以外の方法で個人情報の提供を行うことは、憲法13条に違反しているという疑いがある。

6 (略)

7 結語

以上のとおり、当会としては、自衛隊法97条1項等を根拠として住基4情報を提供することには、憲法13条によって保障された個人情報保護の観点から疑義があると考えられることから、本意見書を発表する次第である。

兵庫県弁護士会ホームページ https://www.hyogoben.or.jp/news/iken/13706/

福岡市の見解

発端となったツイートの舞台、福岡市の見解をHPで確認します。

従来の対応

1 これまでの対応
 令和元年度までは、自衛隊の職員が募集対象者へ募集案内を配付するため、毎年度、住民基本台帳法第11条第1項に基づき、各区役所で住民基本台帳を閲覧し、募集対象者の氏名、住所、性別、生年月日を書き写していました。

福岡市HPより引用(https://www.city.fukuoka.lg.jp/shimin/kusei-suishin/life/jieikanntoubosyuu.html

法的根拠

 (1) 情報提供の根拠・住民基本台帳法との関係
 自衛官等募集事務については、市町村の法定受託事務と定められており、自衛隊法施行令第120条には、「防衛大臣は、自衛官又は自衛官候補生の募集に関し必要があると認めるときは、都道府県知事又は市町村長に対し、必要な報告又は資料の提出を求めることができる。」と定められており、この法令を根拠に、毎年、防衛大臣から各市町村長に対し、募集対象者情報の提出について、依頼があっています。
 防衛省と総務省より、自衛官等の募集に関し必要となる情報に関する資料の提出は、自衛隊法第97条第1項に基づく市区町村の長の行う自衛官等の募集に関する事務として自衛隊法施行令第120条の規定に基づき、防衛大臣が市区町村の長に対し求めることができること、募集に関し必要な資料として、住民基本台帳の一部の写しを用いることについて、住民基本台帳法上、特段の問題を生ずるものではないことが通知されています。

福岡市HPより引用(https://www.city.fukuoka.lg.jp/shimin/kusei-suishin/life/jieikanntoubosyuu.html

個人情報保護法との関係

(3) 個人情報の保護に関する法律との関係(令和5年度以降)
 個人情報の保護に関する法律が改正され、令和5年4月1日より施行されたことに伴い、地方自治体の個人情報の取扱いに関しては、同法の規定に基づき実施することとなりました。自衛隊法施行令第120条に基づく募集対象者の個人情報の提供は、同法第69条第1項の「法令に基づく場合」に該当するとの見解が個人情報保護委員会より示されています。(自衛官等募集案内を配付するために、募集対象者情報を提供することは、本人の同意は必要とされていません。)

福岡市HPより引用(https://www.city.fukuoka.lg.jp/shimin/kusei-suishin/life/jieikanntoubosyuu.html

要約

福岡市の主張をまとめると、次のようになります。

  • 自衛隊への資料提供は、「自衛隊法第97条第1項」と「自衛隊法施行令第120条」に基づいて行っている。
  • 個人情報については、個人情報保護法第69条第1項に基づいており、違法性はない。

自衛隊法関係

では、ここからは法律の詳しい中身を見ていきます。

まずは、問題の発端となっている自衛隊法から。

自衛隊法

自衛隊法97条を抜粋します。

(都道府県等が処理する事務)

第九十七条 都道府県知事及び市町村長は、政令で定めるところにより、自衛官及び自衛官候補生の募集に関する事務の一部を行う。

自衛隊法

自衛隊法により、市町村長は自衛官募集事務の一部を行う必要があるとされています。

その詳細は、政令=自衛隊施行令で別に規定されています。

自衛隊法施行令

自衛隊法施行令において、自治体が関係するのは114条~120条です。

そのうち、120条が自衛隊に個人情報の資料を提供する根拠とされています。

第七章 雑則

114条~119条(省略) クリックすると開きます

(募集期間の告示)

第百十四条 二等陸士として採用する陸上自衛官(第百十七条において「二等陸士」という。)又は陸上自衛隊の自衛官候補生の募集期間は、防衛大臣の定めるところに従い、都道府県知事が告示するものとする。

(応募資格の調査及び受験票の交付)

第百十五条 市町村長は、前条の募集期間内にその管轄する市町村の区域内に現住所を有する者から志願票の提出があつたときは、その志願者が防衛省令で定める応募年齢に該当し、かつ、法第三十八条第一項に規定する欠格事由に該当しないかどうかを調査し、応募資格を有すると認めた者の志願票を受理するものとする。

2 市町村長は、前項の志願票を受理したときは、これを当該市町村を包括する都道府県の区域を担当区域とする地方協力本部の地方協力本部長に送付し、これらの者と試験期日及び試験場について協議の上、志願者に受験票を交付するものとする。

(応募資格の調査の委嘱)

第百十六条 市町村長は、前条第一項の志願者の本籍が当該市町村にない場合には、同条同項の調査を志願者の本籍がある市町村の市町村長に委嘱することができる。

(試験期日及び試験場の告示等)

第百十七条 都道府県知事は、当該都道府県の区域を警備区域とする方面総監と協議して二等陸士又は陸上自衛隊の自衛官候補生の採用試験の試験期日、試験場の位置及び名称その他必要な事項を定め、これを告示するものとする。

2 都道府県知事は、自衛隊が管理する場所、施設又は器具(以下この項において「場所等」と総称する。)以外の場所等を二等陸士又は陸上自衛隊の自衛官候補生の採用試験のため使用しようとする場合には、都道府県知事の管理する場所等又は他の者の管理する場所等をその管理者と協議の上、自衛隊に使用させるものとする。

(海上自衛官、航空自衛官等の募集事務)

第百十八条 都道府県知事及び市町村長は、第百十四条から前条までの規定の例により、二等海士として採用する海上自衛官若しくは二等空士として採用する航空自衛官又は海上自衛隊若しくは航空自衛隊の自衛官候補生の募集に関する事務を行う。

(広報宣伝)

第百十九条 都道府県知事及び市町村長は、自衛官又は自衛官候補生の募集に関する広報宣伝を行うものとする。

(報告又は資料の提出)

第百二十条 防衛大臣は、自衛官又は自衛官候補生の募集に関し必要があると認めるときは、都道府県知事又は市町村長に対し、必要な報告又は資料の提出を求めることができる。

自衛隊法施行令

施行令のうち、162条も引用します。

(事務の区分)

第百六十二条 第百十四条から第百二十条までの規定により都道府県又は市町村が処理することとされている事務、前条第二項の規定により河川法(昭和三十九年法律第百六十七号)第九条第二項に規定する指定区間内の一級河川及び同法第五条第一項に規定する二級河川に関して都道府県又は地方自治法第二百五十二条の十九第一項の指定都市が処理することとされている事務並びに第百三十三条(第百四十四条において準用する場合を含む。)、第百三十四条、第百三十五条(第百四十四条において準用する場合を含む。)、第百三十七条第二項(第百四十四条において準用する場合を含む。)、第百三十九条第二項、第百四十条において準用する災害救助法施行令第八条第二項第二号及び第百四十一条第二項の規定により都道府県が処理することとされている事務は、地方自治法第二条第九項第一号に規定する第一号法定受託事務とする。

自衛隊法施行令

地方自治法に規定する「法定受託事務」という言葉が出てきました。

次に地方自治法を見ていきます。

地方自治法

第二条 (略)

⑨ この法律において「法定受託事務」とは、次に掲げる事務をいう。

一 法律又はこれに基づく政令により都道府県、市町村又は特別区が処理することとされる事務のうち、国が本来果たすべき役割に係るものであつて、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律又はこれに基づく政令に特に定めるもの(以下「第一号法定受託事務」という。)

地方自治法

法定受託事務とは、本来国が行うべきものを市町村が代わりに行うものです。

住んでいる地域で格差が生じないように、基本的に全国一律同じ基準でやらなければいけない事務のことです。

つまり、自衛隊法施行令に規定されている自治体の業務は、「本来国が行うべきものだけど、わけあって市町村が代わりに行う業務」という性格があるということです。

ここまでが自衛隊法関係における、自衛官募集事務の位置づけです。

特に重要なのが、自衛隊法施行令第120条です。

個人情報関係

次に個人情報まわりを見ていきます。

個人情報保護法

個人情報は、本来の利用目的以外のために利用したり提供したりすることが禁じられています。

ただし、下記のとおり「法令に基づく場合を除いて」です。

なので、法令に基づいていれば、本来の目的以外のために個人情報を使うことができることになります。

この法律に当たるのが、自衛隊法施行令120条です。

つまり、「自衛隊法施行令120条に基づいているので、個人情報を提供しても問題ない」という解釈になります。

(利用及び提供の制限)
第六十九条 行政機関の長等は、法令に基づく場合を除き、利用目的以外の目的のために保有個人情報を自ら利用し、又は提供してはならない。
2 前項の規定にかかわらず、行政機関の長等は、次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、利用目的以外の目的のために保有個人情報を自ら利用し、又は提供することができる。ただし、保有個人情報を利用目的以外の目的のために自ら利用し、又は提供することによって、本人又は第三者の権利利益を不当に侵害するおそれがあると認められるときは、この限りでない。
一 本人の同意があるとき、又は本人に提供するとき。
二 行政機関等が法令の定める所掌事務又は業務の遂行に必要な限度で保有個人情報を内部で利用する場合であって、当該保有個人情報を利用することについて相当の理由があるとき。
三 他の行政機関、独立行政法人等、地方公共団体の機関又は地方独立行政法人に保有個人情報を提供する場合において、保有個人情報の提供を受ける者が、法令の定める事務又は業務の遂行に必要な限度で提供に係る個人情報を利用し、かつ、当該個人情報を利用することについて相当の理由があるとき。
四 前三号に掲げる場合のほか、専ら統計の作成又は学術研究の目的のために保有個人情報を提供するとき、本人以外の者に提供することが明らかに本人の利益になるとき、その他保有個人情報を提供することについて特別の理由があるとき。

個人情報保護法

住民基本台帳法

今回のケースでは、個人の氏名や住所などが記載された資料を自治体から自衛隊へ提供しているようです。

自治体は「住民基本台帳」という管理システムにより、住民の個人情報を管理しています。

転居などをした時に役所の住民課で手続きをすると、それにより住民基本台帳の情報が更新されています。

個人情報はとても重要な情報ですので、乱用はできないように規制されています。

法律による規制は当然のこと、端末はパスワード管理されており、業務に関係のない職員はアクセスできません。

例えば、ぼくがいた総務課は市民の個人情報を扱うことがほとんどないので、住民基本台帳へのアクセス権はなく、パスワードも与えられませんでした。

じゃあ、同僚からこっそり教えてもらえるかと言えば、当然そんなこともありません。

たぶんそれをやれば一発でクビが飛びます。

そのくらい厳しく管理されています。

なので、他の自治体や国へ個人情報を提供することも規制されています。

同じ行政機関であっても。

それが住民基本台帳法第11条です。

この第11条は、自衛隊への個人情報提供に関する説明に散見されます。

(国又は地方公共団体の機関の請求による住民基本台帳の一部の写しの閲覧

第十一条 国又は地方公共団体の機関は、法令で定める事務の遂行のために必要である場合には、市町村長に対し、当該市町村が備える住民基本台帳のうち第七条第一号から第三号まで及び第七号に掲げる事項(同号に掲げる事項については、住所とする。以下この項において同じ。)に係る部分の写し(第六条第三項の規定により磁気ディスクをもつて住民票を調製することにより住民基本台帳を作成している市町村にあつては、当該住民基本台帳に記録されている事項のうち第七条第一号から第三号まで及び第七号に掲げる事項を記載した書類。以下この条、次条及び第五十条において「住民基本台帳の一部の写し」という。)を当該国又は地方公共団体の機関の職員で当該国又は地方公共団体の機関が指定するもの閲覧させることを請求することができる。

2 前項の規定による請求は、総務省令で定めるところにより、次に掲げる事項を明らかにしてしなければならない。

一 当該請求をする国又は地方公共団体の機関の名称

二 請求事由(当該請求が犯罪捜査に関するものその他特別の事情により請求事由を明らかにすることが事務の性質上困難であるもの(次項において「犯罪捜査等のための請求」という。)にあつては、法令で定める事務の遂行のために必要である旨及びその根拠となる法令の名称)

三 住民基本台帳の一部の写しを閲覧する者の職名及び氏名

四 前三号に掲げるもののほか、総務省令で定める事項

3 市町村長は、毎年少なくとも一回、第一項の規定による請求に係る住民基本台帳の一部の写しの閲覧(犯罪捜査等のための請求に係るものを除く。)の状況について、当該請求をした国又は地方公共団体の機関の名称、請求事由の概要その他総務省令で定める事項を公表するものとする。

住民基本台帳法

あえて「閲覧」だけ色を変えました。

後述しますが、どうしてもここが理解できないのです。

防衛省と総務省による通知

自治体から自衛隊へ個人情報を提供することは問題ないとの見解が、防衛省と総務省の連名で各都道府県庁に宛て通知されています。(令和3年2月5日付 自衛官又は自衛官候補生の募集事務に関する資料の提出について(通知))

福岡市でも、この通知を法的な根拠として位置付けています。

防人育第1450号
総行住第 1 2 号
令和3年2月5日


各都道府県市区町村担当部長 殿
(市区町村担当課扱い)
防衛省人事教育局人材育成課長
総務省自治行政局住民制度課長
(公 印 省 略)


自衛官又は自衛官候補生の募集事務に関する資料の提出について(通知)


令和2年の地方分権改革に関する提案募集において、自衛官又は自衛官候補生の募集に関する事
務について「住民基本台帳の一部の写し」(住民基本台帳法(昭和42年法律第81号)第11条第1項に
規定する住民基本台帳の一部の写しをいう。以下同じ。)を国に提出できることの明確化について提
案があり、別添のとおり「令和2年の地方からの提案等に関する対応方針」が令和2年12月18日に
閣議決定されました。
この住民基本台帳の一部の写しの国への提出については、自衛隊法(昭和29年法律第165号)第97
条第1項及び自衛隊法施行令(昭和29年政令第179号)第120条に基づき、現行においても実施可能で
あるところですが、改めて下記のとおり通知します。
つきましては、貴職におかれましては、この旨を貴都道府県内の市区町村に周知いただきますよ
うお願いいたします。
なお、本通知は、地方自治法(昭和22年法律第67号)第245条の4第1項に基づく技術的助言であ
ることを申し添えます。



1 自衛官及び自衛官候補生の募集に関し必要となる情報(氏名、住所、生年月日及び性別をいう。)
に関する資料の提出は
、自衛隊法第97条第1項に基づく市区町村の長の行う自衛官及び自衛官候
補生の募集に関する事務として自衛隊法施行令第120条の規定に基づき、防衛大臣が市区町村の
長に対し求めることができること。

2 上記の規定の募集に関し必要な資料として、住民基本台帳の一部の写しを用いることについて、
住民基本台帳法上、特段の問題を生ずるものではない
こと。


以上

国や自治体の解釈を要約

解釈要約

情報提供の根拠 

  • 自衛隊法第97条
  • 自衛隊法施行令第120条

個人情報の取扱い

  • 個人情報保護法第69条
  • 住民基本台帳法第11条
  • 防衛省総務省通知(令和3年2月5日付「自衛官又は自衛官候補生の募集事務に関する資料の提出について(通知)」)

好意的に解釈するならば、

自衛隊を募集する事務は、自衛隊法と自衛隊法施行令により自治体の業務でもあるわけだし、法令にも基づいているので、募集にあたって自治体は自衛隊に個人情報を見せることができる。

ということができると思います。

カナヘビ

「好意的」と書いたのは、個人的には自衛隊法施行令120条に基づいて提出する資料に「個人情報」を含むというのは、再考の余地があるんじゃないかという気がするからです。でも、その話は今は省略します。

どうしてもわからないのは、住民基本台帳法の運用です。

除外申請は単なる「配慮」

冒頭の福岡市の例に戻ります。

4 自衛隊への情報提供を希望されない方へ
 本件が、法令等に抵触する情報提供ではないことは前述のとおりですが、個人情報保護審議会の答申において要望された、自衛隊に自己の個人情報の提供を望まない方への配慮として、情報の提供をしてほしくない旨の意思表示を行った方については、ご本人又は保護者様等から除外申請の手続きをしていただくことにより、自衛隊へ提供する名簿から除外いたします。

福岡市HPより引用(https://www.city.fukuoka.lg.jp/shimin/kusei-suishin/life/jieikanntoubosyuu.html

「本来は必要もないけど、特別に配慮して、除外申請という手続きをつくってあげますね」ということになります。

他の自治体のHPも見ましたが、どこも同様の記載でした。

つまり、自治体側の好意にすぎません。

なので、せめても配慮する自治体と、配慮すらしない自治体があることになります。

住民基本台帳法と防衛省通知の比較

これまで、法律的な位置づけを見てきました。

以上のことから、自衛隊へ個人情報を提供することは適法だとされています。

で、ぼくの疑問です。

住民基本台帳法11条に「閲覧」って書いてるのに、なぜ自衛隊に資料を「提供」できるの?

(国又は地方公共団体の機関の請求による住民基本台帳の一部の写しの閲覧

第十一条 国又は地方公共団体の機関は、法令で定める事務の遂行のために必要である場合には、市町村長に対し、当該市町村が備える住民基本台帳のうち第七条第一号から第三号まで及び第七号に掲げる事項(同号に掲げる事項については、住所とする。以下この項において同じ。)に係る部分の写し(第六条第三項の規定により磁気ディスクをもつて住民票を調製することにより住民基本台帳を作成している市町村にあつては、当該住民基本台帳に記録されている事項のうち第七条第一号から第三号まで及び第七号に掲げる事項を記載した書類。以下この条、次条及び第五十条において「住民基本台帳の一部の写し」という。)を当該国又は地方公共団体の機関の職員で当該国又は地方公共団体の機関が指定するもの閲覧させることを請求することができる。

住民基本台帳法

住民基本台帳法11条を要約すると、「国は市町村役場に対し「閲覧」を請求することができる」。

逆の立場から、つまり市町村役場の立場から見ると「国から請求があった場合は「閲覧」させることができる」と理解できます。

「閲覧」とは、通常、役所に来てもらってその場で見てもらうことを指す言葉です。

「プレゼントする」という意味は含まないはずです。

たぶん、資料を差し上げる時は「交付」とか「提供」を使うはずです。

一方で、冒頭のツイートのように問題となっているのは、まさに自治体から自衛隊への資料提供です。

その根拠とされているのが、先ほども触れた国からの通知です。

住民基本台帳法11条は「閲覧」と規定しているのに、自衛隊への資料提供について「住民基本台帳法上、特段の問題を生じるものではない」とはどういうこと?

何度読んでも理解できなかったので、以下のとおり問い合わせをしました。

自治体の回答

福岡市役所市民局総務部区政推進課の回答です。

  • 国からの通知により、住民基本台帳の写しの提供は問題ないとされている。
  • したがって、明確には書かれていないが、「閲覧」には「資料の提供」も含まれると解釈している。
カナヘビ

この拡大解釈はさすがにムリだと思う

ちなみに、神奈川県内の自治体に関する記事がありました。

すべての自治体が国からの通知に思考停止にならず、自主的な判断をしていることに安堵します。

自衛官の募集事務を巡り、安倍晋三首相が「6割以上の自治体が協力を拒否している」と発言したことを受け、神奈川新聞社が調査したところ、県内の全33市町村が募集に協力し、このうち川崎市や横須賀市など3市2町は対象者の名簿を提出していることが12日までに、分かった。残る28市町村は個人情報保護の観点から公開を制限する住民基本台帳法や条例などを踏まえ、名簿や住基台帳の閲覧で対応。自治体間で大きく違いが生じており、名簿提出を裏付ける法的根拠のあいまいさが浮き彫りとなった。

自衛官募集は、全国50カ所に設置されている自衛隊地方協力本部が業務を担う。自治体から提出された名簿や住民基本台帳の閲覧で得た個人情報を基に、入隊に適した18歳、22歳などの男女にダイレクトメールを送るほか、戸別訪問などを実施する。

こうした自衛官募集への自治体の協力は自衛隊法に基づいており、全国の市区町村に対し、対象となる住民の住所や氏名などを記載した名簿やデータの提出を要請している。同法は法定受託事務として自治体が「事務の一部を行う」と規定し、同法施行令で防衛相が名簿の「提出を求めることができる」とする。ただ、提出は義務ではない。

一方、住民基本台帳法は、国または地方公共団体は法令で定める事務の遂行のために必要である場合に限り、住民基本台帳の一部の写しを閲覧させることができるとしている

神奈川新聞社の取材に対し、防衛省からの要請への対応について、川崎、横須賀、南足柄の3市と葉山、開成の2町(15%)が「名簿提出」と回答。7市5町(36%)が「該当者を抽出した名簿の閲覧を認める」、9市6町1村(48%)が「該当者を抽出せず台帳の閲覧を認める」と答えた。

判断の根拠については、名簿提出の自治体は「防衛相から市長に要望があり、市の個人情報保護条例などを精査して提出できると判断した」(川崎市)、「個人情報保護条例には個人情報の利用や提供に制限があるが、ただし書きで『法令の定めがあるとき』は除外されている」(横須賀市、葉山町)などとした。

一方、閲覧にとどめる自治体は「住民基本台帳法には提供の文言がない」(平塚市)、「自衛隊法は名簿提出を明確に定めていない」(座間市)、「市の個人情報保護条例に抵触するため要請には応えられない」(藤沢市)など法令に基づく対応としている。

なお、名簿の提出や閲覧以外の「協力」として、各自治体は広報紙での募集記事掲載や、啓発物品の配架などを行っているとした。


首相の自衛官募集発言

安倍晋三首相は2月10日の自民党大会で「(市区町村の)6割以上が協力を拒否している」と発言。さらに、同13日の衆院予算委員会で「防衛相の要請に対し、6割以上の自治体から自衛官募集に必要な協力を得られない」と述べた。自民党は14日付で、所属国会議員に地元自治体に関連名簿提出を促すよう求める通達を出した。ただ、共同通信の調べによると、住民基本台帳の閲覧を含めると全国の市区町村の約9割が協力しており、反発や疑問の声が相次ぐ。名簿提出は法令上の義務ではなく、野党は「地方への圧力」と批判している。

神奈川新聞「自衛官募集、県内3市2町が名簿提出 法的根拠は不明瞭」 2019年3月13日(水) https://www.kanaloco.jp/news/social/entry-153934.html
カナヘビ

まさかの安倍元総理登場・・・

総務省の回答

次に総務省住民制度課の回答です。

  • 通知のとおり、資料の提供は住民基本台帳法上問題がないと解釈している。
  • 住民基本台帳法では資料の提供を禁止していない。
  • 住民基本台帳法第11条の「閲覧」をどのように解釈するかは各自治体の判断。総務省として統一見解を示すことも指導をすることもない。

何度も確認しましたが、上記の繰り返しでした。

「暖簾に腕押し」ということわざがこれほどピッタリな会話はないと思います。

「閲覧=見せること」ではないか?との問いかけにも、イエスもノーもありませんでした。

「禁止されてないからやってもいい」って発言もどうかと思いました。

「自衛官募集の詳細は防衛省に聞いてくれ」とのことだったので、総務省としては自分たちの問題とは捉えていないのかもしれません。

カナヘビ

まさか総務省が半ギレでこんな返答をしてくるとは思わなかったので驚きでした。
公務員時代に問い合わせた時はいつも回答がスマートだった印象なので。

防衛省の回答

防衛省人事教育局人材育成課の回答です。

  • 資料提供の根拠は自衛隊法施行令120条。
  • 住民基本台帳法のことは理解しているが、自衛隊法施行令に基づき自治体にご協力をお願いしている。
  • 自衛隊法施行令が住民基本台帳法に優先するとか、そういうことでない。
  • 「閲覧」については、今は何とも言えない。
  • 資料提供しない自治体もあると思う。最終的には自治体が判断。
カナヘビ

何を言っているかよくわからないんですよね。
国民って舐められてんだなあ。

青森県内の動向

自衛隊をめぐる個人情報提供問題は、地元青森県では大きく取り扱われていないように思います。

ローカルニュースでも見た記憶がありません。

ニホントカゲ

まあ、自衛隊に理解のあるお国柄ですからね。

自衛隊青森地方協力本部

青森県内の状況を手っ取り早く確認しようかと、自衛隊青森地方協力本部へ問い合わせをしました。

「その件については、機密情報でありお答えできない、と上から指示されている」

残念ながら教えてもらえませんでした。

カナヘビ

役所から個人情報をもらっていることは「機密情報」なのか。

むつ市

次にむつ市役所の回答です。

  • 「閲覧」ではなく、「情報提供」をしている。(氏名、住所、年齢など)
  • 除外申請は受け付けていない。
  • 情報提供はずっと前から行っている。
  • 国の通知と国会答弁に基づいて行っている。

何の動きもないと思ったら、市民へのお知らせや除外申請を受付などの「配慮」すらなしに、もうやってしまっていると。

問題意識すら持っていない分、ヤバい感じがします。

ところで、検索にヒットしないけど、住民基本台帳法11条3項による公表はどうなってるんだろう?

シュレーゲル

まさか、「閲覧」じゃないから公表も不要とか言わないよね・・・

3 市町村長は、毎年少なくとも一回、第一項の規定による請求に係る住民基本台帳の一部の写しの閲覧(犯罪捜査等のための請求に係るものを除く。)の状況について、当該請求をした国又は地方公共団体の機関の名称、請求事由の概要その他総務省令で定める事項を公表するものとする

住民基本台帳法第11条

弘前市

  • 「閲覧」の方法にしている
  • 全国で起きていることは把握している
  • 自衛隊からの要望はあるが、「閲覧」にとどめている

さすが弘前市

【2023.9.23追記】弘前市/十和田市の解釈

2023年9月のむつ市議会一般質問において、他市の事例が示されました。

弘前市と十和田市の解釈は、「自衛隊に個人情報を提供できるとする法的根拠がない」というものです。

「自衛隊法に基づいているから同意なき個人情報提供は可能」というむつ市の解釈と真逆です。

法律の運用が自治体の解釈でいかようにもなる、そんなことあるわけないですよね。

まとめ

問題点と個人的見解
  1. 自衛隊に個人情報を見せることがそもそも適切なのか?【少しあやしい】
  2. 自衛隊に個人情報を見せるだけでなく、提供することが適切なのか?【たぶん違法】

仮に自衛隊法施行令120条によって情報提供が可能だとしても、自治体は最終的に住民基本台帳法を遵守しなければならない。

だから、自衛隊への個人情報の「提供」は住民基本台帳法11条に抵触している

ぼくはそう思っています。

あちこち問い合わせをしましたが、残念ながら論理的な回答は得られませんでした。

むしろ、役人たちの遵法意識に失望したし、一市民としてできることに無力感を覚えました。

カナヘビ

公務員がハッキリ言えないということは、やましいことがあるということでもあるんだよね。

ただ、ひとつだけわかったことがあります。

それは、自衛隊に個人情報を提供することの最終判断はあくまで自治体であるということ。

したがって、その最終的な責任も自治体にあるということ。

国は、解釈は示しておきながら責任を取らない、いつものスタンスだと感じました。

自治体のみなさんには、よく考えて行動していただきたいと思います。

いつものように、ハシゴを外されるかもしれませんよ。

カナヘビ

住民基本台帳に記載されている個人情報を扱う時、自治体の担当者が住民基本台帳法に縛られないなんてことが、住基法の規定を無視していいなんてことが、本当にあり得るかな?

冒頭に申し上げたとおり、自衛隊の活動を否定したいわけではありません。

ただ、市民がわかるように説明してほしいだけです。

本件に限らず、法律の解釈があやふやなまま、なし崩し的にモノゴトが決まって進んでしまう風潮を嫌悪しています。

総務省と防衛省があのように歯切れの悪い回答。

「あえて明言しないようにしている」のか。

もし、本当にそうだったとしたら。

これから先、解釈ひとつで何でもできてしまうことになる。

それはもう法治国家とは呼べないんじゃないか・・・

この件については、引き続き調べていきたいと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

補足|住民基本台帳法12条の2(2023.5.16追記)

ちなみに、住民基本台帳法には、国が住民票の写しの交付を請求できる規定もあります。

(国又は地方公共団体の機関の請求による住民票の写し等の交付)
第十二条の二 又は地方公共団体の機関は、法令で定める事務の遂行のために必要である場合には、市町村長に対し、当該市町村が備える住民基本台帳に記録されている者に係る住民票の写しで第七条第八号の二及び第十三号に掲げる事項の記載を省略したもの又は住民票記載事項証明書で同条第一号から第八号まで、第九号から第十二号まで及び第十四号に掲げる事項に関するものの交付を請求することができる
2 前項の規定による請求は、総務省令で定めるところにより、次に掲げる事項を明らかにしてしなければならない。
一 当該請求をする国又は地方公共団体の機関の名称
二 現に請求の任に当たつている者の職名及び氏名
三 当該請求の対象とする者の氏名及び住所
四 請求事由(当該請求が犯罪捜査に関するものその他特別の事情により請求事由を明らかにすることが事務の性質上困難であるものにあつては、法令で定める事務の遂行のために必要である旨及びその根拠となる法令の名称)
五 前各号に掲げるもののほか、総務省令で定める事項
3 第一項の規定による請求をする場合において、現に請求の任に当たつている者は、市町村長に対し、国又は地方公共団体の機関の職員であることを示す書類を提示する方法その他の総務省令で定める方法により、当該請求の任に当たつている者が本人であることを明らかにしなければならない。
4 市町村長は、特別の請求がない限り、第一項に規定する住民票の写しの交付の請求があつたときは、第七条第四号、第五号、第九号から第十二号まで及び第十四号に掲げる事項の全部又は一部の記載を省略した同項に規定する住民票の写しを交付することができる。
5 第一項の規定による請求をしようとする国又は地方公共団体の機関は、郵便その他の総務省令で定める方法により、同項に規定する住民票の写し又は住民票記載事項証明書の送付を求めることができる。

住民基本台帳法

住民基本台帳法12条の2に法律に基づけば、「住民票の写しの交付を請求できる」わけです。

しかしながら、防衛省も総務省も各自治体も、住民基本台帳法11条1項に基づく事務としています。

11条は「当該市町村が備える住民基本台帳のうち第七条第一号から第三号まで及び第七号に掲げる事項(同号に掲げる事項については、住所とする。以下この項において同じ。)に係る部分の写し」でした。

つまり、11条1項と12条の2の違いは、「住民基本台帳の写し」か「住民票の写し」かであると言えます。

些細な違いではありますが、「住民票の写し」とは、ぼくたち市民が役所に行って取得するのと同じ、1枚ものの紙のことを指すはずです。

仮に、自衛隊が100人分の情報を知りたいとなった時、住民票の写しを請求すると、住民票の写しを100枚渡されることになります。

自衛隊側からすると面倒くさいですよね。

これが、「住民票」ではなく「住民基本台帳の写し」であれば、必要な情報の一覧などをもらうことができる。

要するに、12条の2に基づいて事務を行うと手間がかかるから11条1項を拡大解釈している、と自分なりに考えています。

自衛隊個人情報

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