こんにちは。
元公務員シュフのシロイクジラです。
今回取り上げるテーマは「少子化=人口減少」です。
書名 2050年世界人口大減少
著者 ダリル・ブリッカー/ジョン・イビットソン(倉田幸信 訳)
出版 文藝春秋
人口減少は行政にとって非常に大きな問題です。
なぜなら、人口が減るということは、経済ひいては地域そのものの衰退につながるからです。
人口が減る最大の要因は少子化です。
なので、少子化対策という名目でいろいろな政策が行われています。
ところで、その政策は、どのような分析の上に成り立っているのでしょうか?
言い換えると、少子化の原因は何なのでしょうか?
男女の出会いがないこと?
安定した職に就けないこと?
収入が少ないこと?
本書の概要
本書には少子化の原因に対する答えが明確に書かれています。
要約すると次のようになります。
出生率の低下の根本的の要因は「都市化」であり、それに伴う「女性の教育水準の向上」である。
都市での育児はコストが高く、出産育児は女性の自立の妨げになる。
したがって、社会構造が変化した以上、出生率増加は望めない。
要するに、社会構造の変化によるものだから少子化は止まらない、ということです。
本書における人口減少対策の解決策はただひとつ。
「移民の受け入れ」です。
ですが、本記事では、解決策について議論しません。
正しい解決策にたどり着くために、少子化の原因を正しく理解する。
そのことを目標としたいと思います。
日本という国だけでなく、自分たちの都道府県、住んでいる町に置き換えて、最適解を見つけるヒントにしていただければと思います。
ただ、大事なことなので先に引用しておきます。
一度下がった出生率を人口置換水準——人口の維持には女性一人あたり平均2.1人の子供を生む必要があるとされる——にまで高めることに成功した政府はない。
P17
少子化の根本的原因①|都市化
繰り返しますが、少子化の原因についての本書の答え。それは「都市化」です。
最も大きな要因は都市化であることに議論の余地はない。社会の経済的発展は都市化を促進し、都市化が進むと出生率が下がる。これは圧倒的多数のデータにより証明されている。
(中略)
農場では子供を作るのが「投資」になる。牛の乳搾りをする手、畑を耕す腕が増えるからだ。だが、都市部では子供は「負債」になる。養うべき口が一つ増えるだけだ。この傾向は現在までずっと変わらない。2008年に行われたガーナの都市化と出生率に関する研究では、次のように結論している。「都市生活では子育ての費用がかさむ見込みが高いため、都市化は出生率を下げる。都市では住宅費が余計にかかるし、おそらく家庭内生産の面でも子供は都市ではあまり役に立たない」。親の自分勝手な言い分に聞こえるかもしれないが、人々が都市に住むと子供の数を減らそうとするのは、純粋に自分たちの経済的利益に基づく行動に過ぎない。
P31~P32
何が出生率を引き下げるのかをもう一度思い出してほしい。——それは都市化である。都市化が進むと若い労働力は不要になり、逆に子供は経済面での負債となる。そして都市化は女性に力を与える。自分の身体を自ら支配できるようになった女性は、例外なく子供の数を減らす。この2つの要素は19世紀から20世紀にかけて先進国の社会にしっかりと根をおろした。
P46
いかがでしょうか。
至極当然のように思いますよね。
ただ、言葉にすると耳ざわりが悪い。
こういうことも、政策決定の場において、問題の本質を直視できなかった一因であるかもしれません。
少子化の根本的原因②|女性の社会的地位向上
女性の地位が向上し、男女平等な社会が実現することはすばらしいことです。
しかしながら、女性が社会で活躍する場面が増えるにつれ、子ども費やすリソースは減少します。
それはやむを得ないことだったけどと思います。
誤解しないでいただきたいのは、「女性が社会進出しなければ出生率を上げられる」といった主張ではありません。
そういった主張は一切登場しません。
女性の社会進出は、望ましいというよりも当たり前のことです。
その前提で、人口減少問題の解決策として本書は「移民の受け入れ」を提唱しているのです。
子供を抱えた女性は家の外での仕事が制限される。仕事が続けられなければ、収入面だけでなく自立の可能性も下がりかねない。世界銀行の研究員は次のように指摘する。「ある女性が受ける教育水準が上がれば上がるほど、その女性が生むであろう子どもの数は減っていく」
P33
「就業パターンが変わり、幼児保育施設や学校が減り、家族と子供を中心とした社会から個人を中心とした社会へのシフトが起きる。そして子供は、個人の自己実現や幸福のための一要素になる」(中略)子供を持つことはもはや一族郎党や社会や神に対する義務ではない。子供を持つということは、そのカップルの自己表現方法であり、人生を経験する1つの手段なのだ。
P114
おもしろくて給料も高い仕事をしている女性なら、妊娠しようと考える可能性は下がる。子供を持つことはキャリアの大きな障害になり得るからだ。どれほど先進的な育児休業制度があろうとも、どれほど優れた幼児保育サービスが利用できたとしても、出産・育児のために一時仕事を離れることは、その女性のキャリアの足を引っ張りかねない。(中略)複数の調査が示すところによれば、子供のいない女性の収入はほぼ男性と等しい。なにが男女の収入格差を生むのかといえば、子供を持つことなのだ。
P138~P139
この指摘も、言われてみれば当たり前のような気がします。
子育てによって仕事を失う。
子育てによってキャリアが中断する。
子育てによって自分の時間がなくなる。
子育てにはお金がかかる。
そして、子育てはめちゃくちゃ大変。
なので、
子どもは1人でいいとか、
子どもはいらないとか、
結婚しないとか、
そういう考えになることは、ごく自然なことだと思います。
少子化を克服するためには、まず若者にこういった考え方を変えてもらえるかが重要になります。(女性だけでなく男性も)
そしてそのためには、子どもを産み育てることのコストや、キャリアの問題に向き合わないといけません。
しかしながら、お役所の議論にはそういった発想がまったくないと感じます。
だから対応策がすべて表面的というか、付け焼刃的な感じがするんですよね。
例えば婚活。
「出会いがない男女に出会いの場を与える」という目的で実施されています。
でも、婚活で出会ったカップルが必ず結婚するとは限らないし、仮に結婚したとしても子どもを2人以上産むとは限らない。
したがって、もし出生率が上がらないのであれば、婚活を行った自治体は、「成果が上がらなかった以上は少子化対策として失敗だった」といつか結論づけなければならないと思います。
というか、そもそも「出会い」って個人的な事柄であって、それに対して税金をつっこんで「官製合コン」をやる必要があるのか疑問です。
児童手当や育休は効果があるか?
子供を持とうと思わせるための多彩な支援政策は確かに一定の効果を持つ。目盛りを動かすことができるのだ。ただし目盛りを大きく動かすことはできない。しかもそうした支援政策には巨額の費用がかかり、不況時にも同じ政策を続けるのは難しい。
P104
これは、先進国のなかでも出生率が高いスウェーデンの政策についての評価です。
本書によるとスウェーデンの出生率は1.9です。
あのスウェーデンでさえ、人口置換水準である2.1人を下回っています。
児童手当や育休といった、社会保障制度による少子化の根本的な解決は難しい、というのが本書の主張です。
手厚い育児休業制度や児童手当の増額など、政府の社会政策で人々に多くの子供を持つよう促すことはできる。だが、その効果は極めて限定的であり、しかもその種の政策には巨額の費用がかかるため、長時間続けることは難しい。
P144
短期的には若干の効果があるかもしれないが、持続的に人口置換水準である出生率2.1人を維持するのは困難だと主張されています。
国の助成制度に、新婚世帯の家賃や引越費用を助成する「結婚新生活支援事業」があります。
所得制限ありで、助成上限額60万円(30歳以上の場合は30万円)です。
何も無いよりはあった方がいいのかもしれません。
でも、
将来が不安で結婚をためらっているカップルが「今なら60万円もらえるから結婚しよう」と決断するものでしょうか?
彼らの抱える将来の不安とは、60万円で解決する程度のものなのでしょうか?
むしろ、もともと結婚するつもりだったカップルが「助成金もらえてラッキー」と思って申請するのではないかと思います。
国も自治体もアリバイがほしいんですよね。
「何かやってるよ」「仕事してるよ」って。
実は、ぼくは少子化対策の担当をしていた時、本書を読んでいたので、この事業の導入に反対しました。
議員からの突き上げも予想できたので「根本的な解決につながらない」とレポートも書きました。
その時は導入をせずに済みましたが、どうやら後任の方は導入することにしたようです。
たぶん「周辺の自治体がやっているのに、うちはやらなくていいのか!?」と議員から突き上げられたんでしょうね。
ただでさえ人が少なくて忙しいのに、自ら無意味な仕事を増やすので、体調を崩して休職する人が増えるのは当然なんですよね。
内閣府HP https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/meeting/hojokin/r05/index.html
まとめ
都市化が進み社会構造が変化した以上、出生率は上がらないから少子化は止まらないというのが本書の主張です。
まとめとして、訳者のあとがきを引用します。
今からわずか30年ほどで世界人口は減少に転じ、その後は坂道を転げ落ちるように急減していくというのだ。
(中略)
その根拠を一言で言えば「都市化と女性の地位向上」である。(中略)ヒトが一生に何人の子供をもうけるかは、そのヒトが暮らす社会の文化や価値観に決定的な影響を受ける。
(中略)
著者ふたりは、欧州、アジア、アフリカ、南北アメリカなど世界各地でフィールドワークを行い、若い女性が発する生々しい声を聞く。そして、世界中どこでも、教育の機会と情報に接する手段を手に入れた女性は子供も数を減らしていく、と確信するのだ。
(中略)
人口増加のエンジン役は移民である。カナダは歴史の失敗に学び、自国の利益のために移民を受け入れることを学んだ。だが人口増加と引き替えに、「カナダ人とはなにか」という国としてのアイデンティティは失われつつあるという。
(中略)
ドイツは日本に次ぐレベルの深刻な少子高齢化に直面している。これだけ子育て支援の政策が充実し、人々が子連れに優しい社会であってもそうなのだ。(中略)結局、日本やドイツのように(世界レベルで見れば)女性の地位が高く豊かな社会では、筆者が言うように、女性が自分で子供の数を決められる。そして彼女たちが望む数はせいぜいふたりなのだ。
国民人口の壊滅的な減少を食い止めたければ、全面的に移民を受け入れるしかない——本書を読めば、日本の進むべき道は1つしかないことがはっきりわかる。
P370~P373
本書における人口減少問題の唯一の解決策は「移民の受け入れ」です。
当然、移民の受け入れには良い面だけでなく、負の側面もあります。
なので、慎重な議論が必要になると思います。
ですが、たとえ「移民の受け入れ」に賛同できないとしても、本書を読めば、
少なくても、
「出会いの場のための婚活」だとか、
「町内会が独身の若者におせっかいをやく」だとか、
「結婚するための引越し費用の助成金」だとか、
そういう政策がいかに不毛かがわかると思います。
人口減少対策として、当時担当していた移住の助成金について議会で議論していた時のこと。
ある高齢議員が、突然強い口調でこう言い始めました。
「最近の若者は結婚式も挙げない。俺は若者に地元で結婚式くらいさせてやりたいんだ!」
だから彼が何を主張したかったのか結論はもう忘れてしまいましたが、
ぼくが感じたのは、
- 結婚式は人口の増減と関係ない
- 結婚したら結婚式を挙げるべきは個人の信条
ということです。
挙式するかしないかは、もはやお金の問題だけでなく、当人たちの考え方もあっての判断だと思います。
それこそ、田舎の古い風習が嫌で地元で結婚式を挙げないという人もいるのではないかと思います。
若い人の声も聞かず、自分の主観価値観だけで物事を押し通そうとする、たぶん実際に押し通してきた議員。
本題と全く関係ないことを言い出す議員。
そういう議員によって構成されているのが、田舎の地方議会の実情です。
だから地方が良くなるはずもなく。
百歩譲って偉そうにするのはいいとして、議論くらいはまともにしてほしいものです。
ちなみにその議会、女性は高齢の方1人のみでした。
政治や行政、特に決定権を持っているご年配の方々は、もっと若い人たちの生活や価値観を理解する必要があります。
特に女性のライフスタイルに関してはなおさらです。
子どもとの生活は楽しいです。
でも、現実には、
子どもが自己実現の障壁になることだってあります。
「ない」なんて言うのは偽善です。
「自己実現」と「子どもを持つこと」がトレードオフになっている。
そのことを政策立案に携わる人は直視すべきだと思います。
そうすれば、その場しのぎの政策を打っても意味がないことくらいわかると思います。
子どもがいても、自分らしく、自分が望む人生を生きれる社会。
まずはそれを考えてほしい。
移民の受け入れを考える前に。
書名 2050年世界人口大減少
著者 ダリル・ブリッカー/ジョン・イビットソン(倉田幸信 訳)
出版 文藝春秋
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