孤独か連帯か|アルベール・カミュ「ヨナ」(『転落・追放と王国』)

ヨナ

別の部屋でラトーはカンヴァスを眺めていた。それは全然白のままだった。その中央にヨナは実に細かい文字で、やっと判別できる一語を書き残していた。が、その言葉は、solitaire(孤独)と読んだらいいのか、solidaire(連帯)と読んだらいいのか、わからなかった。

『転落・追放と王国』P310(窪田啓作訳)

こんにちは。

架空の本屋、かなへび文庫の店主シロイクジラです。

今回は、アルベール・カミュの短編「ヨナ」を紹介します。

カミュと言えば『異邦人』で有名なフランスの作家です。

この「ヨナ」は、新潮文庫の『転落・追放と王国』に収録されている40ページほどの短編です。

冒頭の引用は、「ヨナ」のラストの場面です。

孤独|solitaire

連帯|solidaire

相反する2つの言葉。

それがたった1字違いという皮肉。

孤独か、連帯か。

主人公ヨナの苦しみが非常によく表れています。

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あらすじはこうです。

「ヨナ」あらすじ

ジルベール・ヨナは自分の星(運命)を信じていた。

勤め人から画家になり、結婚して、子どももできた。

古くて狭いアパートの暮らしにも満足していた。

画家して名声を得ると、弟子や友人が多くできた。

彼らはヨナのアパートに入り浸るようになった。

入れ替え立ち代わり。

アトリエだけでは済まず、寝室にまでも。

ヨナは一日中彼らの相手をした。

絵を描く時間がなくなった。

家族との時間もなくなった。

それでもヨナは自分の星を信じていた。

自分のための時間も場所もなくなっても。

徐々に仕事が減り、名声も下がっていった。

友人たちの態度も変わっていった。

ヨナは酒や女に逃げた。

ある朝、悲しみにうちひしがれた妻を見た。

ヨナは決心した。

彼はアパートに屋根裏部屋を作った。

絵を描くために。

やがて屋根裏部屋から降りて来なくなった。

食事もとらなかった。

暗闇のなかで自分の星が輝くのを待っていた。

妻と子どもの声を聞いて家族への愛情を感じた。

彼は暗闇の中に自分の星を見つけた。

彼は感謝した。

そして倒れた。

倒れたヨナを医者が診ている間、親友のラトーがカンヴァスを眺めている。

そして、冒頭の引用につながっていきます。

別の部屋でラトーはカンヴァスを眺めていた。それは全然白のままだった。その中央にヨナは実に細かい文字で、やっと判別できる一語を書き残していた。が、その言葉は、solitaire(孤独)と読んだらいいのか、solidaire(連帯)と読んだらいいのか、わからなかった。

『転落・追放と王国』P310(窪田啓作訳)

ヨナは自分の星を信じていました。

弟子や友人を称する人たちがどんなに厚かましく傲慢であっても、ヨナは最後まで彼らを非難することはありませんでした。

孤独か連帯か。

あるいは孤独でも連帯でもない第3の道があるのかもしれない。

ヨナは何を選んだのか。

そしてあなたは何を選ぶのか。

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ヨナ

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