- 入社先でまともな新人教育が受けられない人
- 新卒で内定が出たけど、働くことが不安な人
- 会社の先輩の仕事のやり方に疑問を感じている人
- 自己流で仕事をしている地方公務員の人
新人公務員時代、いろんな研修を受けさせられました。
それも強制で。
たぶんみなさん同じだと思うんですけど、そういう研修に限って、全然意味がないんですよね。
この話は役に立たないなと思って聞いていたし、実際役に立った記憶もない。
まぁ、人事部の人も、仕事で仕方なくやってるだけですからね。
だから、今あらためて思うこと。
意図のない形骸化した新人研修よりも、この一冊の方が価値がある!ということ。
地方公務員として採用10年目、ちょうど地方銀行に出向中に読みました。
まだ青かったぼくは、「仕事に必要なビジネススキルは、経験を積めば身につくものだ」と思っていました。
しかし、出向先の銀行のチームは違いました。
成果に向かって自己研鑽は当たり前。
当然質の高い会話が飛び交います。
自分がお役所で、いかにぬるま湯につかってきたか、痛いほどよくわかりました。
そして近くの書店のビジネス書のコーナーを端から端まで見て、当時平積みされていたこの本を買いました。
なので、本書はぼくにとって人生初のビジネス書。
まさに、目からうろこ。
自分の無知がつくづく悲しくなりました。
正直全部大事なんですが、自分なりのポイントだけ紹介します。
コンサルの本でよく見かける、「雲・雨・傘の論理」や「ヴァリューを出す」などについても書かれています。気になる方はぜひ手にとってみてください。本当に勉強になることばかりです。
Quick and Dirty
“Quick and Dirty” =「素早く、汚く」。
つまり「完璧でなくてもいいから、早く出す」こと。
反対は、”Slow and Beauty” です。
期限ギリギリまでじっくり作りこんだ資料。
上司に提出したら、「そうじゃない」とか言われてやり直しになった経験、サラリーマンなら一度はありますよね。
「もっと早く言ってよ・・・」
結局夜遅くまで残業して、時間もないしストレスマックスで、クオリティの低い資料ができあがり、会議本番もいまいち。
原因は単純なコミュニケーションミスですよね。
“Quick and Dirty” だと、この手戻りの回数を減らすことができます。
60点くらいの出来で、一度上司に見せて方向性を確認すればいいのです。
何度も相談されるのを嫌がる上司もいますが、60点くらいまで出来上がっていれば、「ここの記載はカットして」とか「この資料を追加して」とか、具体的な指示をうけることができます。
これは、成果物が60点のクオリティでOKということではありません。
そうではなくて、素早く60点のレベルまで作って、上司やメンバーと共有するということです。
これによって柔軟な軌道修正が可能になります。
やり直しの資料が社内会議用だったらまだよくて、これが社外のクライアントに向けたものなら大変なことになりますよね。
“Quick and Dirty”だと、方向性の違いにいち早く気付くことができるので、納期に間に合わないなどのリスクを回避できます。
時間をかけないといいものはできない、は嘘。
スピードを追及すると、質も上がる。
P235
情報ではなく本質を提示
本書で紹介されている、あるコンサルタントの事例。
膨大なリサーチに基づいた精緻な資料をクライアントに提出したところ、「こんな資料はいらない。わたしたちがほしいのは、こんな資料じゃない。バラバラの情報ではなく、本質を教えてください(P143)」と切り捨てられてしまったそうです。
もちろん、個々の分析や調査は作業として必要でした。しかし、求められていたのは、それらを統合し、「だから何なのだ」という本質を示すことだったわけです。
P144
一見、当たり前のように思えます。
でも、これは実際のお役所しごとでもよくあります。
例えば住民アンケート。
膨大なページ数のアンケート結果が、ホームページで公開されているのを見たことがありませんか?
見ているみんなが思うこと。
「だから、何が言いたいの?」
アンケートというのは、現状を分析し、状況を改善するために実施するものですよね。
でも、特にお役所の場合は、その改善策を導き出すことなく、集計で満足してしまいがちです。
「分析=集計」と勘違いしている人もいますし、そもそも集計結果をグラフなどにまとめ視覚的に訴えるということが苦手な人もいますので、カラフルなグラフができあがったところでやり切った感にひたってしまうんです。
なので、アンケート結果をまとめた報告書は、
「アンケートの結果を集計しました。その結果こういうことがわかりました。だからこういう点を改善していきます。」
と、後半の大事な部分が抜け落ちてしまいます。
市民生活を改善するという次のアクションに結びつかないので、生産性ゼロの意味のないアンケートになり果てています。
情報を集めるだけでは考えたことにならない。
その先にある「本質」を提示することができてはじめて、価値は生まれる。
P145
余計なことを切り捨てて、スピードを上げる
コンサルタントの仕事の速さ。
その秘訣は「余計なことをやらない(P198)」に尽きるそうです。
大事なことにフォーカスして、
ディープに掘り下げる。
それ以外のことは切り捨てる。
P199
この反対が総花的だそうです。
この反対が総花的なやり方です。ノーフォーカス(総花的)なのにディティール(細部)にこだわろうとする。到底、すべてを時間内に検討できませんし、ディティールにこだわるので、一つひとつもなかなか検討が進みません。結局時間切れになって、アウトプットはゼロということになります。
P200
身近な例で言うと、会議の議事録なんかもこれに当てはまると思います。
大切なことは、「会議で何が決まったか」ですよね。
でも、議事録を作る時に、誰が何を言ったか、一言一句書き出していませんか?
「~~です」なのか「~~だと思います」なのか、そんなことにこだわっている人もいますよね。
たしかに国会答弁などであれば、精緻に記録しておく必要があるのかもしれません。
でも、自分の経験上、そんなことはほとんど必要とされていません。
だって、会議録で大事なのは、会議での決定内容だから。
それでも細部にこだわるのは、それはもうただの自己満足です。
要点にフォーカスし、余計な細部を切り捨てれば、当然入力する文字数が減るので作業が早く終わります。
会議録を作る時のポイントは、ボイスレコーダーを使わないことだと思います。
ボイスレコーダーを使うと、それに頼ってメモを取らないので、記憶もあいまいになりがちだからです。
会議中に要点をメモし、それをもとに会議終了後にその日のうちに会議録を作ります。
すぐにとりかかることで、記憶もハッキリしているので、頭の中で会議の場面を再現しやすいです。
誰が何を言ったか、箇条書きに書き出していって、最後に体裁を整えて終わりです。
今はAIもあるので時代遅れのスキルかもしれませんが、クローズドの会議などでは使えるかもしれません。
ちなみに、余計なことを切り捨てることができない理由として、本書では2点あげられています。
- 切り捨てることに罪悪感がある
- 何が重要で何が重要でないか判断できない
特に2番目が問題ですよね。判断できない理由として「結局自分の頭で考えておらず、適切な問題設定ができていないから(P202)」と述べられています。
自分なりの判断をもつこと。
それがわからないと、捨てる勇気ももてない。
P202
お役所では、いつ使うんだかわからない書類をいつまでもとっておく人がいます。
(しかも結構な割合で)
重要かそうでないか、自分で判断ができないので、捨てられないんです。
なかには保存期限を過ぎていて、絶対に廃棄してもいいのに、残っている書類まで。
デスクまわりに山積みになり、しまいには必要な時に必要な書類を探せなくなってしまいます。
たった1枚探すのに数十分かかったりするから、仕事のスピードは上がりませんよね。
空パックをつくる
これは、実際に資料をつくるうえでとても役に立ちました。
具体的には、パワーポイントを使ってタイトルだけをどんどん書いて、アウトラインをつくってしまいます。タイトルだけでスライドの中身はまだできていないので、空っぽです。なので、空(から)パックとか、空(から)スライドと呼びます。
そして、その空っぽのスライドの中身をどうしたら埋められるか?ということを作業タスクとして洗い出す、つまりアウトプットから逆算するわけです。
P183-184
空パックをつくるメリットとして、次の5点があげられています。
- 最終成果物がイメージできる
- そのために必要な作業を洗い出すことができる
- ワークプランができる
- それぞれの作業を切り出して、複数人に同時に依頼することができる
- うっかりがない
実体験としては、上記①に関連して「論旨が脱線しない」というメリットがありました。
資料を作っていると、担当者として大事だと思っていることを、アレもコレもと付け加えたくなります。
でもそれは、会議の議題と直接関係のない内容だったりします。
一枚目のスライドから考えながら作っていると、全体像が見えず、関係のないパートのボリュームが増えて、結果よくわからない資料ができあがったりします。
なので、中身を作り始める前に、空パックでアウトラインを作ることで、全体像を見渡すことができ、論旨が一貫した資料を作りやすくなります。
時間はお金
著者がクライアントのオフィスで仕事をしていた時のこと。
ちょっとの休憩が、同期のコンサルタントとの雑談で少し長くなってしまったそうです。
以下は、休憩が長くなってしまったことを、マネージャーから注意された時の内容です。
「これはマナーではなく、お金の話です。うちの会社がクライアントに請求している金額を知っていますか?大石さんも一年目ながら、コンサルタントとして料金を請求しています。その額は、1時間に1万円といったところです。20分も休憩していれば、その料金は何千円もの金額になるのですよ。顧客は支払ったお金が何に使われているのかを見ています。だから、プロフェッショナルな態度をとってください。」
P229-230
企業であればクライアントのお金、公務員であれば市民の税金。
自分の時間にお金がかかっているということを認識すれば、「時間をムダにできない」という発想になるはずです。
当たり前と言われれば、当たり前の話です。
でも、ダラダラ仕事をしている人が多いのを見れば、意外とわかっていない人もいるんだと思います。
もちろん、休憩するなと言っているわけではありません。
ただ、廊下で何十分も話し込んでいるおばさんを見ると、そりゃプロフェッショナルな組織とは言えないよね、って思うわけです。
ぼくが公立病院で総務の仕事をしていた時のこと。
看護師のトップである看護部長から依頼がありました。
「院内の看護師の、1分あたりの給料の平均単価を算出してほしい」
何に使うのか尋ねると、「研修の資料として」だそうです。
その意図は、まさに本書のとおり。
「自分たちの勤務時間がお金であることを意識させるため」
田舎では数少ないプロフェッショナルでした。
まとめ
ぼくが本書から学んだこと。
- “Quick and Dirty”
- 情報ではなく本質を提示
- 余計なことを切り捨てて、スピードを上げる
- 空パックをつくる
- 時間はお金
繰り返しますが、他にも勉強になる項目がたくさんあります。
もし、ぼくが人事部の新人教育担当だったら。
まずこの本を読んでもらいます。
そして可能であれば、入社前に、事前課題として読んでもらいたいです。
本書の内容が基礎知識として身についていれば、かなり機能する組織になるんじゃないかなと思います。
(業務の知識や社内のルールなんて、後からどうにでもなるので)
もっと若いうちに出会いたかった、そんな一冊です。
田舎のお役所が内定しているに方は、採用前に本書を読んでおけば、同期や先輩に差をつけられると思います。ただ、目立ちすぎて潰されないように加減してくださいね。
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