失敗ってツライですよね。
誰だって失敗したくない。
でも、逆説的には「失敗しなければ成長もない」とも言えます。
たぶんみなさんにも経験がありますよね。
本書のタイトルは『失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織』です。
英語の原題は”Black Box Thinking : The Surprising truth about Success”です。
後半を直訳すると「成功についての驚くべき真実」になります。
本書は、失敗を恥じたり隠蔽したりするメカニズムを通して、「成功するために失敗を活かすことの重要性」について書かれています。
ビジネスや政治の世界でも、日常生活でも、基本的な仕組みは同じだ。我々が進化を遂げて成功するカギは、「失敗とどう向き合うか」にある。
P17
大切なのは、失敗しないことではなく、失敗を成功につなげること。
失敗を恐れてチャレンジしないのではなく、失敗から成功へのカギを見つけ出すことです。
まず何よりも重要なのは、失敗に対する考え方に革命を起こすことだ。これまで何世紀にもわたって、失敗はまるで汚らわしいもののように扱われれてきた。
この考え方は現在も依然として残っている。だから子どもたちは「間違えたら恥ずかしい!」と思い込み、教室で手を挙げることができない。医者は失敗を認めず、政治家は政策を検証しない。非難やスケープゴートが日常的に見られるのも、背景となる考え方は同じだ。
(中略)
互いの挑戦を称え合おう。実験や検証をする者、根気強くやり遂げようとする者、勇敢に批判を受け止めようとする者、自分の仮説を過信せず真実を見つけ出そうとする者を、我々は称賛するべきだ。
「正解」を出した者だけを褒めていたら、完璧ばかりを求めていたら、「一度も失敗せずに成功を手に入れることができる」という間違った認識を植え付けかねない。複雑すぎる社会では、逆にそうした単純化が起こりがちだ。もしその間違いを正すことができれば、我々の生活に革命が起こると言っても過言ではない。
P320
失敗をいかす航空業界と失敗を隠す医療業界―クローズド・ループ
我々は何かとスケープゴートを見つけようとする。(中略)誰も、当事者の立場に立って「何か複雑な原因があったのかもしれない」などとは考えない。その結末はとてもシンプルだ。誰もが失敗を隠すようになる。学習に欠かせない貴重な情報源を、活用することもないままに葬り去ってしまう。
(中略)
人は失敗を隠す。他人から自分を守るばかりでなく、自分自身からも守るために。
P24
本書は、医療事故により女性が亡くなってしまうという非常にショッキングな場面の描写から始まります。
「不運な事故」で片づけられてしまいがちな医療事故ですが、彼女の夫は旅客機のパイロットでした。
その航空業界は、さらなる惨事を起こさぬよう、事故や失敗の教訓を次にいかす文化でした。
そのため、夫は妻の死をムダにしないよう調査を働きかけ、結果的に詳細が明らかになっていきます。
この2つの業界には大きな違いがあります。
最も大きな相違点は、失敗後の対応の違いにある。医療業界には「言い逃れ」の文化が根付いている。ミスは「偶発的な事故」「不測の事態」と捉えられ、医師は「最善を尽くしました」と一言言っておしまいだ。しかし航空業界の対応は劇的に異なる。失敗と誠実に向き合い、そこから学ぶことこそが業界の文化なのだ。彼らは、失敗を「データの山」ととらえる。
P40-41
医療業界だけではありません。
本書には、さまざまな分野で、失敗を失敗と認めることができなかった事例が紹介されています。
では、航空業界と他業界の違いは何か。
それは組織としての失敗への向き合い方にあります。
航空業界は「オープン・ループ」、医療業界は「クローズド・ループ」と言われています。
ここでいう「クローズド・ループ」とは、失敗や欠陥にかかわる情報が放置されたり曲解されたりして、進歩につながらない現象や状態を指す。逆に「オープン・ループ」では、失敗は適切に処理され、学習の機会や進化がもたらされる。
P26
クローズド・ループとは、ループ(輪)がクローズド(閉じている)ので、失敗が単発の出来事として処理され、次につながりません。
一方で、オープン・ループの航空業界では、事故があればすぐに第三者委員会が調査に入り、ブラックボックスを回収し、事故の原因を突き止めます。不運な事故を「不運」で済ますことなく、次に同じ事故が起こらないように改善につなげます。
医療業界では当事者の視点でしかものを見ていないため、潜在的な問題に誰も気づかない。彼らにとって問題は存在さえしていない。これがクローズド・ループ現象が長引く原因のひとつだ。失敗は調査されなければ失敗と認識されない。たとえ自分では薄々わかっていたとしても、だ。
P48
さて、みなさんの業界はどちらでしょうか?
失敗を隠すメカニズム―認知的不協和
本書は、人が失敗を隠してしまうメカニズムについて言及しています。
それが「認知的不協和」です。
カギとなるのは「認知的不協和」だ。これはフェスティンガーが提唱した概念で、自分の信念と事実が矛盾している状態、あるいはその矛盾によって生じる不快感やストレス状態を指す。人はたいてい、自分は頭が良くて筋の通った人間だと思っている。自分の判断は正しくて、簡単にだまされたりしないと信じている。だからこそ、その信念に反する事実が出てきたときに、自尊心が脅され、おかしなことになってしまう。問題が深刻な場合はとくにそうだ。矛盾が大きすぎて心の中で収拾がつかず、苦痛を感じる。
そんな状態に陥ったときの解決策はふたつだ。1つ目は、自分の信念が間違っていたと認める方法。しかしこれが難しい。理由は簡単、怖いのだ。自分は思っていたほど有能ではなかったと認めることが。
そこで出てくるのが2つ目の解決策。否定だ。事実をあるがままに受け入れず、自分に都合のいい解釈をつける。あるいは事実を完全に無視したり、忘れたりしてしまう。そうすれば、信念を貫き通せる。ほら私は正しかった!だまされてなんかいない!
P102-103
要するに、失敗してしまった時、プライドが傷ついたり、これまでの努力がムダになることが許せなかったり、失うものが大きかったり、そういう自分自身の都合から、自己正当化のために、事実を都合よく解釈し直したり、無視したりしてしまうということです。
自分の失敗を隠すどころか、自分が絶対に正しいとさらに信じ込んでしまうことすらあるそうです。
人は自分の信念にしがみつけばしがみつくほど、相反する事実を歪めてしまう。
P107
本書では、予言が当たらなかったにもかかわらず信じ続けたカルト信者の事例や、DNA鑑定の結果すら認めることができなかった検事の事例などが紹介されています。
人は、自分が深く信じていたことを否定する証拠を突き付けられると、考えを改めるどころか強い拒否反応を示し、ときにその証拠を提示した人物を攻撃しさえする。
P201
失敗を成功につなげる方法
では、そうすればクローズド・ループをやめ、失敗を成功につなげることができるのか。
その方法について見ていきたいと思います。
マインドセット
最も重要なのは、失敗に対する向き合い方、考え方です。
つまり、失敗を成功のためのチャンスと受け止められるかということです。
成功を収めた人々の、失敗に対する前向きな考え方にはよく驚かされる。もちろん誰でも成功に向けて努力はするが、そのプロセスに「失敗が欠かせない」と強く認識しているのは、こうした成功者であることが多い。
P290
失敗から学べる人と学べない人の違いは、突き詰めて言えば、失敗の受け止め方の違いだ。成長型マインドセットの人は、失敗を自分の力を伸ばす上で欠かせないものとしてごく自然に受け止めている。
一方、固定型マインドセットの人は、生まれつき才能や知性に恵まれた人が成功すると考えているために、失敗を「自分に才能がない証拠」と受け止める。
P293
本書によれば、サッカーのデビット・ベッカムやバスケットボールのマイケル・ジョーダンも、失敗から学べると考えている成長型マインドセットに当てはまるそうです。
マージナル・ゲイン(小さな改善)
試行錯誤しながら、小さな改善(マージナル・ゲイン)を積み重ねていくことも重要です。
「壮大な戦略を立てても、それだけでは何の意味もないと早いうちに気づきました。もっと小さなレベルで、何が有効で何がそうでないかを見極めることが必要です。たとえそれぞれのステップは小さくても、積み重ねれば驚くほど大きくなります。」
P220
そして、まずはやってみること。
「なぜ1人もユーザーがいないうちからすべての質問に答えようとするんだ」
P167
犯人さがしをやめる
失敗から学ぶためにはその事例を検証することが必要ですが、ネガティブな組織では失敗を隠蔽しようとするため、失敗の報告そのものが上がってこないことがあります。
そのため、失敗を追及しない、犯人さがしをしない組織風土が求められます。
何かミスが起こったときに、「担当者の不注意だ!」「怠慢だ!」と真っ先に非難が始まる環境では、誰でも失敗を隠したくなる。しかし、もし「失敗は学習のチャンス」ととらえる組織文化が根付いていれば、非難よりもまず、何が起こったのかを詳しく調査しようという意志が働くだろう。
適切な調査を行えば、ふたつのチャンスがもたらされる。ひとつは貴重な学習のチャンス。失敗から学んで潜在的な問題を解決できれば、組織の進化につながる。もうひとつは、オープンな組織文化を構築するチャンス。ミスを犯しても不当に非難されなければ、当事者は自分の偶発的なミスや、それにかかわる重要な情報を進んで報告するようになる。するとさらに進化の勢いは増していく。
P244
公正な文化では、失敗から学ぶことが奨励される。失敗の報告を促す開放的な組織文化を構築するためには、まず早計な非難をやめることだ。
P261
病院の「ヒヤリハット」とかはこれに近いのではないかと思います。
ちょっとしたミスでも、それを活かすことができれば組織のパフォーマンス向上につながるのに、報告すると怒られるから報告しない。なんてことばっかやってるからいつまでも医療事故が減らないんですよね。
見えていないデータ
失敗から学ぶためには、データを検証し、フィードバックする必要があります。
でも、目の前のデータだけでは不十分で、目の前にないデータも考慮しなければならない場合があります。
第二次世界大戦中の米軍の爆撃機の改良の事例です。
爆撃機の生還率を向上させるため、データを収集した結果、損傷して帰還した爆撃機には共通のパターンがありました。
それは、コクピットと尾翼以外のほぼすべての部分が、砲撃により穴だらけになっていたということです。
なので軍司令部は、撃墜を防ぐには、砲撃を受け穴だらけになった箇所の装甲を強化すればいいとの結論に至りました。
しかし、この結論には欠陥がありました。
軍が集めていたのは「損傷して帰還した爆撃機」のデータだけであり、「撃墜され帰還できなかった爆撃機」のデータは含まれていなかったのです。
帰還した爆撃機のコクピットと尾翼に穴の跡がなかったのは、そこを撃たれたら帰還できなかったからだ。
言い換えれば、帰還した爆撃機の穴の跡は、そこなら撃たれても耐えられる場所を示していた。検証データは、装甲が必要な場所ではなく、不要な場所を示していたのだ。
(中略)
まず、失敗から学ぶためには、目の前に見えていないデータも含めたすべてのデータを考慮に入れなければいけない。
P54-55
まとめ
“The Surprising truth about Success”(成功についての驚くべき真実)とは、「失敗を受け入れること」です。
恥ずかしいかもしれないし、苦しいかもしれない。
でも、起こってしまったことは仕方ないので、それを次の成功のための貴重な経験として活かせばいい。
ということです。
だからこそ成功する、とも言えます。
逆に、同じ失敗を繰り返すこと。
これこそが、最も恥ずかしいことだと思います。
世の中には、先人たちのいろんな失敗事例があります。
それらを学ぶことは、ぼくたちがこれから成功をつかむためのチャンスでもあります。
ニッキンという金融業界の専門紙が発行した『失敗から学ぶ』という本があります。
全国の銀行員の失敗事例を集めた本ですが、「あー、わかるわー」という類の失敗がたくさん詰まっていて非常に勉強になります。
アマゾンなどでは購入できないと思いますので、もしメルカリなどで見かけた時は、チェックしてみてもらいたいと思います。
最後に、フランクリン・ルーズベルト大統領夫人、エレノア・ルーズベルトの言葉を引用して、本稿を閉じさせていただきます。
「人の失敗から学びましょう。自分で全部経験するには、人生は短すぎます」
P41
書名 失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織
著者 マシュー・サイド(訳者 有枝 春)
出版 ディスカヴァー・トゥエンティワン
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