- 会社の人間関係に悩んでいる人
- 会社の風土に疑問を感じている人
- 来春、新卒で入社予定の人
第1章 自分を変えるな、「道具」に頼れ
第2章 全ての会社は「部族」である
第3章 朝起きられず、夜寝られないあなたへ
第4章 厄介な友、「薬・酒」とどう付き合うか
第5章 ぼくが「うつの底」から抜けだした方法
たぶん、タイトルに惹かれて手にとったと思います。
障害のある方向けのハウツー本。
一部、そういう側面もあります。(薬の服用のことなども書かれています)
でも、それだけじゃないんです。
今回は、本書の『第2章 全ての会社は「部族」である』をご紹介します。
刺激的な表現ですよね。
でも、本当にそのとおりです。
マジで共感しました。
発達障害の有無に関係なく、組織の中で生存していくために必要な知恵や心構えが書かれていますよ。
部族の掟を知ろう
職場というのは、言うなればひとつの部族です。このことをまずしっかりと理解してください。
そこは外部と隔絶された独自のカルチャーが育まれる場所です。そして、そこで働く人の多くはそのカルチャーにもはや疑いを持っていません。あるいは、疑いを持つこと自体がタブーとされていることすらあります。それはもう正しいとか間違っているみたいな概念を超えて、ひとつの「トライブ(部族)」のあり方そのものなんです。言うまでもありませんが、それは排他的な力を持ちます。部族の掟に従わないものは仲間ではない、そのような力が働きます。
P101
これはまったくその通りです。
組織には独自の謎ルールがあります。
合理性がなくても、ルールとして存在しています。
例えば、稟議書のハンコ。お役所では「末端の若造は最終決裁者から一番遠い場所に押す」という暗黙のルールがありました。決裁者の隣に押そうものなら、「あいつは生意気だ」と陰口をたたかれます。
また、上司へのお茶出しやマグカップ洗いが、若造の毎日の仕事だったりする職場もいまだにあるそうです。「子どもじゃあるまいし自分でやれや」とぼくは思いますが、掟なのでどうしようもないようです。
「空気を読む」とは、そのような部族の中に流れるカルチャーをいち早く読み取り、順応する能力です。
P102
空気を読むという行動は、実はとても難しいものです。
なので、著者が失敗経験から編み出した具体的スキルは、とても貴重だと思います。
見えない通貨
人間の間で流通する金ではない何かを僕は「見えない通貨」と呼んでいます。
P109
商売では、何かを買ったらその対価として「お金=通貨」を払います。
何かのサービスを受けたらその対価として「お金=通貨」を払います。
商売ではなく、人間関係に置き換えます。
何かをしてもらったら、「それに対応する行動でお返しをする=対価として通貨を払う」ということです。
誰かに親切をしてもらった。その対価として「ありがとうございました」とお礼をする。このお礼が見えない通貨です。
親切にしてもらったことに対してお礼をすることは、「しなければいけない」義務ではありません。
ただし、お礼をしないことによって、その後の人間関係が「良くはならない」ことは容易に想像できます。
著者は、この感覚を理解するのが難しかったそうです。
人間は他者に与えたものに対して対価が支払われなかったとき、大変強い怒りを覚えます。観察の結果、そう考えるのが妥当だと僕は思いました。
親切にしてやったのにお礼がないという怒りは、ぼくがかつて想像していたより遥かに深い。それは、商売人が商品を渡したのに対価が支払われなかったときの怒りにすら近いのかもしれません。
P110
では、「部族の三大通貨」と呼ばれるものを見ていきましょう。
褒め上げ
「仕事を教わる」という商品は、一見タダに見えて決してタダではありません。教えてもらった分量に対して、感謝と敬意という対価を正しい方法で支払う。これが一番楽なやり方です。
P114
クソみたいな上司や先輩でも、仕事を教えてもらったら、その対価を払った方が、ケンカをするより効率的だそうです。
その敬意を示す対価が「褒める」です。
「褒める」と聞くとたいていの人はレトリックの方を重視しがちですが、重要なのはむしろタイミングです。音ゲーに近いですね。
(中略)
じっくり観察していると自分が放り込んだ言葉が「ミス!」なのか「グッド!」なのか、あるいは「エクセレント!」なのかわかってきます。
P116
「すごいですね」「さすがですね」「勉強になります」などでいいので、言葉の表現よりも、タイミング重視で褒める。
タイミングは音ゲー感覚で。
言い方は不自然にならないように。
どちらも練習さえすれば実戦で使えるそうです。
自分が外から見ていて思うのは、ごますり野郎は大げさでわざとらしいです。褒められた上司は上機嫌でも、周りが引いてしまいますので、やりすぎには注意しましょう。
面子(メンツ)
面子を立てるとは、部族の掟に従い「私はあなたに敬意を払い、顔を立てるべき相手と認識しています」という表明をすることです。あなたは見えない通貨で対価を支払い、相手に協力を依頼したわけです。
P120
「俺はその話を聞いていないぞ」と言いながら、よくわからないエラいおじさんが話に介入してきてシッチャカメッチャカになった経験って、誰もがあるのではないでしょうか。あれは、「俺の面子を潰しやがって」と怒っているのです。「俺に支払いがなかったぞ」と怒っているのです。
P120
「話を通す」ということは、相手に何かを依頼しに行くわけです。
その依頼を引き受けてもらうことの対価が、「面子を立てる」ことです。
じゃあ、関係者が複数いた場合、誰から話を通すか。
本書にもあるとおり、それは「部族の掟を観察する」しかありません。
ところで、この面子は、営業職のような数字がすべてのような世界では価値が小さいそうです。
なので、そうでない職種の場合は必須のスキルです。
特に、公務員や総務部門、実質的にはほぼメリットのない管理職など、金銭的な褒章を得にくい職種の場合は、この「面子」という通貨を得ることに人間は本気を出し始めます。サル山のボス猿争いと根本的には同じです。ボス猿に「あなたがボスだと認めます」という態度を示さなかったサルはボッコボコにされるわけです。
P121
ぼくは元公務員なので、これはよくわかります。
組織の社内政治を理解して、面子を潰さないように、立ち回っていかないといけません。
また、社内の交渉だけでなく、「会議の名簿の順番」「懇親会の座席順」「集合写真の配置」など、お偉いさんの面子を潰さないよう努力しないといけない場面は多くあります。
「これって住民のためになるんだっけ?」って雑務も、公務員には多いです。
公務員を目指す若い人は、割り切って、我慢して、通貨を払い続けてください。
挨拶
得になるならタヌキの置物にでも挨拶すればいいじゃないですか。
P125
スマートにやろうという概念を捨てて「とにかく挨拶してくるやつ」という評価を勝ち取った方が、たいていの場面においては得です。
P126
とにかく「機械的」に挨拶すればいいそうです。
挨拶を返してくれない先輩にも、タヌキの置物にも。
挨拶をして得をすることはあっても、損をすることはない。
確かにそのとおりですね。
ちなみに、本書でも取り上げられていますが、「飲み会に翌日にお礼の挨拶」という部族ルールがあります。
ぼくのいたお役所でもありました。
今思うと、同じ部族としての一体感を確かめあっていたのかなと思います。
(ごちそうになった場合はお礼をしないといけないですよ。人として。掟とは関係なく)
部族の祭礼「飲み会」の乗り切り方
飲み会の乗り切り方のハウツー本って、他にあるんでしょうか?
自分は実践で経験値を貯めてきたタイプなので、正攻法はわかりません。
ただし、本書で書かれていることは本当によくわかるんです。
偉い人からお酌をする
若い人は面倒と思うかもしれませんね。
これも前述の挨拶と同じで、やって損はありません。
お酌をしに来ないヤツのことを根にもつことはあっても、お酌をされて気を悪くすることはないからです。
「あいつは新人歓迎会で俺に酌をしに来なかった」と数年ごしにお怒りの方と遭遇したときは、本当にこの世の終わりみたいなやつだなと思いましたが、これも見えない通貨です。払っておくに越したことはありません。これを可能な限りやろうと思っていれば、飲み会で鯛つくする暇はないでしょう。
P129
そもそも瓶ビールがなければお酌をするような場面もないかもしれませんが、お酌をする場面がある時は、どうせ楽しくない会社の飲み会ですから、仕事だと思ってがんばってください。
会社の飲み会は仕事同然ですが、「接待」ではなく「営業」する気持ちで臨めばいいと思います。営業先でクライアントと話をするなかで、仕事の新しい糸口が見つかったりしますよね。そういう感じで、今後の仕事のヒントを見つけるための「営業」だと割り切って参加してはいかがでしょうか。1回の飲み会で、1個でもヒントをつかめれば「成果アリ」だと思います。
喋るな、喋らせろ
職場の飲み会が大好きな方は、たぶんここまでお読みいただいてないと思います。
なので、職場の飲み会が嫌いな方へ。
上司や先輩の話の聞き役に徹しましょう。
著者の言葉を借りれば、「飲み会には事故が起こる要因が全て揃っている」し、「地球上に無礼講の場など存在しない」のです。
飲み会の場は、人間同士が値踏みし合う場だと認識しておくのが正解です。逆に稼げる評価はここで稼いでおきましょう。(中略)
飲み会の帰りは「本当に疲れた」という気持ちでいられれば安心、くらいの気持ちでいいです。
P131
その他に、ぼくが相手に喋らせた方がいいと思う理由は、たいていの上司は、飲み会で部下の話を聞くより自分の武勇伝を話したがっているからです。
上司が武勇伝を話し出すと、たいてい長くなります。
なぜなら、普段誰も聞いてくれないからです。
なので、武勇伝を聞いていると、長い長い飲み会の時間を潰すことができます。
武勇伝を聞くことには仕事上のメリットもあります。過去の話を聞くことで、会社のカルチャーへの理解が深まります。上司の仕事に向き合う姿勢もわかります。社員同士の人間関係やパワーバランスも伺い知ることもできます。何より、話を聞いてくれたということで、その上司からの評価・信頼を得ることができます。
田舎のお役所、特に町役場・村役場では、高確率で忘年会が「宿泊付き」です。これは、地元ではなく近隣市の繁華街で開催されるためで、理由としては、地元では顔がわれているのでグチも言えないしハメを外せないからです。なので、遠出して深夜まで飲んで泊まるということになります。楽しくない仕事の飲み会に金を払うのもイヤな人にとっては地獄です。深夜まで長時間拘束されて、おいしくもない酒に金を払って、しかも翌朝ホテルで顔をあわせるんですから。
茶番センサーを止めろ
しかし、世の中の大半は、「やらなくて済めばそれに越したことはないくだらないこと」で形成されているのもまた、事実だと思います。
こういった世の営為の茶番性とでも言うべきものを読み取り、「くだらない」という結論を下す能力を、僕は「茶番センサー」と呼んでいます。
このセンサーがピンと反応すると、全てのモチベーションは失われ、シニカルさやアイロニックな考え方が頭をもたげてきます。
P147
不幸なことに、ぼくの茶番センサーはかなり感度が高いです。
小学生ながら、「卒業生に歌で感謝を伝える」とか、まったく意味がわかりませんでした。
当然、体制側(学校で言うと先生)からは好ましく思われません。
でも、社会のいたるところで茶番は起こります。
部族から追放されないためには、茶番と知りつつ、それを乗り越えていかないといけません。
茶番センサーを解除するには、茶番を必死でやるしかないのです。
P150
理想は、怜悧に茶番を茶番と認識にながらも、同時にその茶番に向かって全力で突撃していけるマインドセットです。世界は茶番です。無意味でくだらないクソです。でも、勝ちたかったら全力を出すしかないわけですよ。
P151
著者本人が書いているように、人間関係のハック自体がもはや茶番かもしれません。
でも、現実として、茶番のような部族の掟は存在しています。
茶番センサーをとめて、やっていくしかないのです。
若い頃、研修の一環として、市議会を傍聴した時のこと。
老議員が市長と議論をしていました。
今でも記憶にあるのは、市長が何を言っても、その議員は「わたしにはなっとくできません」としか言わなかったことです。
正しくは、「納得できない」の後に、その理由を言っていたように思います。
ただ、論理性に欠けた理由とは呼べないような理由を一方的にグダグダ言うだけなので、茶番センサーが反応して、途中から真剣に聞くのをやめたんだと思います。
研修後のレポートに、「このような議員はいずれ淘汰されるべき」と書いて上司に提出しました。
結果は、やり直しです。当たり前ですよね。
この点、茶番対応がうまい人は、はじめから「有意義な研修だった」とか「今後の業務に役立つ」とか平気で書けるんですよね。
でも、今こうやって振り返ると、茶番に付き合うより、存在自体税金のムダづかいだと糾弾する方が正論だったように思います。
まとめ
「会社は部族」って本当にうまい表現だなぁ、とつくづく思います。
はじめから「部族」だとわかって接すれば、入社後に余計なダメージを負わなくて済みます。
「うちの会社おかしいぞ」と思ったら、一度冷静に部族の行動様式を観察してみてください。
そして著者である借金玉さんの知恵を借りて、茶番センサーを止めて、部族ごっこに興じてみてください。
部族の行動様式にはパターンがあります。
時間をかけさえすれば、いずれ慣れるものです。
(慣れる前の段階で反抗の態度を見せるので、叩かれるんでしょうね)
「部族の中に迷い込んでしまった」
今いる部族の掟が、世の中のスタンダードであるとは限りません。
でも、部族の中に留まらなければいけない時は、そう思って受け流していきましょう。
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