書名 リンカーンのように立ち、チャーチルのように語れ 聞くものの魂を揺さぶるスピーチテクニック21
著者 ジェームズ・ヒュームズ
恥ずかしながら、アメリカ大統領にスピーチライターがいると初めて知ったのは、確か30歳前後だったと思います。
世の中にはそういう仕事があって、だからこそ、聴衆に影響を与える、世界が注目するスピーチができるのか、と思ったものです。
なぜそういうことを思ったかというと、お役所にも首長や上司の挨拶原稿を作る仕事があるからです。
でも、その仕事はお役所では面倒くさいやっつけ仕事として位置づけられていました。
それがイヤで、どうにかならないかなと悩んでいた時に読んだのがこの本です。
やっつけ仕事なので、作る側としては、去年の原稿のコピペがベース。
出だしと終わりはほとんど同じ。
ところどころに登場する時事ネタパートを今年風に変えることで、オリジナル感を演出します。
作った本人が話すわけではないので、聞く側の気持ちなんて考えません。
内容よりも体裁を大事にします。
なので、だいたいつまらない挨拶になります。
この本を読んで、スピーチ原稿に対する考え方が大きく変わりました。
スピーチライターとしてやれることがたくさんあることに気付いたので、原稿を書くことが楽しくなりました。
本書には、21個ものスピーチのテクニックが書かれています。
今回は、原稿を書く上で、特に重要なポイントをご紹介します。
本書には原稿の内容だけでなく、「外見」、「ジェスチャー」、「原稿への目線の落とし方」などのテクニックも書かれていますので、自分がスピーチをする時にも参考になります。
強烈な第一声
説得力をもって語る人は、たいてい冒頭から力強いメッセージを発する。感謝したり、聴衆をほめたりして、愛想よく話し始めたりはしない。
P23
チャーチルはかつてこう言った。「礼儀正しい始まりは、愚かしい始まりである」。ありきたりな言葉で切りだせば好感は持たれるかもしれないが、ひどく退屈でつまらない印象を与えてしまう。
P24
思い返してみても、つまらない挨拶は「本日はお忙しいところ・・・」とかから始まります。
スポーツ大会の大会長挨拶は「雲ひとつない青空の下・・・」とかから始まります。
聴衆を引き付けるためには、それではいけないということです。
もしも、あなたがいまスピーチやプレゼンの原稿を書いているなら、最初の言葉にはたっぷり時間をかけるべきだ。しっかり準備し、磨きをかけ、練習を積む。これを怠ってはならない。
沈黙のあと強烈な第一声を繰りだし、あくびをしそうな聞き手にガツンと食らわせるのだ。それが痛快な言葉であれば、必ず聞き手の眠気を覚ます。本題に入るのはそのあとだ。
P33
聞き手側からすると、お決まりの文句から始まる挨拶はテンプレートの原稿を読んでってわかるので、聞く価値もなさそうな印象を受けますよね。
「今日はどんな話をするのかな」と聞き手に期待を持たせるためには、第一声にこだわることが重要だということです。
先に結論を決める
著者は、アイゼンハワー大統領のスピーチライターをしていたことがあるそうで、スピーチの原稿について大統領に怒鳴られたエピソードが書かれています。
結論はなんだ?1行で言いたまえ!この演説を終えたとき、聴衆に何をしてもらいたいんだ?そのことを頭に入れてから草稿を書き始めないと、きみの時間も、わたしの時間も、恐ろしく無駄になる。
P50
ちなみに、アイゼンハワー自身は、1930年代にマッカーサーのスピーチを書いていたそうです。
テンプレートのスピーチがつまらない理由、それは何が言いたいのかわからないということです。
一生懸命聞いても何が言いたいのかわからない。
だから聞かない。
下を向くのも失礼なので虚空を見つめてやり過ごす。
スマホすらいじれないムダな時間。
なぜそうなってしまうのか。
それは、スピーチの目的が「スピーチしなければいけないから」になっているからだと思います。
本来、スピーチすることは、相手を動かすチャンスでもあります。
だからこそ相手に何をしてほしいか、その結論を明確にしておく必要があります。
結論が不明確だと、結局話があちこちに飛んで、よくわからないつまらない話になってしまいます。
スピーチの目的を正確に把握し、発する言葉をすべてその目的に向けることが必要だということです。
・目的のない話には軽蔑を隠しきれない。(ウィンストン・チャーチル)
・無意味な言葉ばかりの演説は勘弁していただきたい(ベンジャミン・フランクリン)
P54
思い切って短く
スピーチの目的や要点が定まっていれば、決して長々と話す必要はありません。
というか、長々とスピーチしたからといって、聴衆に与える影響が大きくなるわけではありませんよね。
むしろ短く簡潔にした方が、際立ったメッセージになり、記憶にも残りやすいそうです。
世の中には、20分の予定時間を割りふられると、無理やり持ち時間を使いきろうとする人、さらには予定を超過しても話しつづける人があまりにも多い。もし15分間を期待されていて、それより5分早く切りあげることができれば、すばらしいリーダーぶりを示せるというのに・・・・・・。実際、そうすれば切れ味が鋭く、毅然とした人として際立って見えるのだ。
P68
能動態で語る
本書のテクニックはどれも非常に参考になりますが、当時公務員だった自分に最も響いたもの。
それが「受動態をやめて能動態を使う」テクニックでした。
チャーチルは受動態を”弁明態”と呼んだ。責任逃れをしたい人が使う言葉でもあるからだ。
責任を引き受けるリーダーの言葉は”能動態”だ。受動態はリーダーが使う言葉ではない。責任を避けたい役人の言葉だ。
P244
受動態は、スピーチから活気と躍動感を奪ってしまう。わくわくするようなパンチの効いた会話を、ぼんやりとした灰色の”官庁用語”に変えてしまう。
P245
伝えたい内容に力を与えたいなら、能動態を効果的に使わなければならない。受動態を使う弱虫にはなるな。チャーチルのように、言葉にエネルギーを注入するのだ。
P246
〇【能動態】我々は必ず勝利をつかみとります。(真珠湾攻撃の後の、フランクリン・ルーズベルト大統領の演説の一節)
×【受動態】必ず勝利がつかみとられるでしょう。(上記を受動態に変換したもの)
P238~P239
自分の経験を振り返ると、自信がなかったり、あとで責任をとりたくない時に受動態になりがちです。
だからこそ、相手に意図が伝わりにくいということもあるのかもしれません。
今になって思えば。
積極的に相手に訴えたいときは、能動態を意識してみましょう。
まとめ
聴衆を引きつけるスピーチ原稿をつくるポイント。
- 原稿を書く前に、相手に伝えたい結論を決める。
- 相手を引き付けるため、第一声にこだわる。
- 冗長にならないように、簡潔にまとめる。
- 自信を持って、能動態で語る。
これらを意識するだけでも、原稿のデキが違ってくると思います。
お偉いさんのスピーチがつまらない事件。
たぶん、ぼくたち自身が最も多く経験してきたはずです。
でも、明日は我が身。
「あいつの挨拶つまんねー」と言われないようにがんばりましょうね。
中学生時代の陸上競技の開会式。
これからレースに出ないといけない、早くウォーミングアップしないといけない。
それなのに、主催者挨拶だの、来賓の挨拶だの、選手に関係ないスピーチがたくさん。
しかも内容がまったく伝わってこない。
「それって今話さないといけない?」、「選手に何の関係がある?」、「審判長注意って本当に必要?」
「お偉いさんってアホなの?早く終われや。」って本気で思っていました。
今の若者の方がずっと頭が良いので、きっとこれ以上のことを思ってますよね。
ですので、もしそんなスピーチ原稿を書いているようであれば、ぜひ本書を読んでみてください!
書名 リンカーンのように立ち、チャーチルのように語れ 聞くものの魂を揺さぶるスピーチテクニック21
著者 ジェームズ・ヒュームズ | 訳者 寺尾まち子
出版 海と月社
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